何が起こったのか理解できないまま、目を瞬かせる。今この瞬間も、ルシウス様の顔がすぐそこにある。温かい吐息が触れる距離に。
「……クローディア」
眉を顰め苦しそうな顔をしたルシウス様は、そっと私の身体を離してくれた。
ゆっくりと離れていくルシウス様の唇を、私は呆然と見つめる。
彼の表情は苦しそうで、けれど、どこか熱を帯びている。
「……ごめん、もう、我慢できなかった」
ルシウス様の声が、耳元で低く響く。
我慢、できなかった?
ルシウス様の手が頬に添えられる。その指先が私の方を優しくなでる。そのまま、首に、肩に、そして背中を撫でていく。
はだけたままの私の肌を、ルシウス様の手が降りていく。
「クローディア、俺……は、……嫌だったよな、ごめん」
ルシウス様の声が小さく揺れる。
嫌だった……のだろうか。
私は自分の気持ちを確かめるように、そっと唇に触れた。確かに急な出来事だった。
だけど、嫌なはずがなかった。
私はルシウス様の事が好きなのだから。
けれど、嬉しいと感じるよりも疑問が大きいだけだ。
「……発情期なのかも、しれないですね」
「クローディアの魔力は、確かにすごく……気持ちがいい」
「魔力は……」
もしかしたら色を変える行為は、魅了のようなものなのかもしれない。
密着に、気持ちよさ。そうして相手の心を開き、変えていく。
そういうものだったのかもしれない。
それなら、今のルシウス様の状態にも説明がつく。
「もう一度していいか?」
ルシウス様が吐息交じりに、耳元で囁いてくる。甘い響きのそれは、きっと私の魔力が作り出したものだ。
「……はい」
ぽつりと呟いた私の言葉に、ルシウス様は息を飲んだ、気がした。そして今度は、はっきりと私を求めるように、もう一度唇を重ねてきた。
さっきよりも深く、そして、熱を持って。
逃がさないとでもいうように腰を抱かれ、深く口づけられ、どうしたらいいかわからない。ただ、されるがままに身を預けることしかできない。
けれど、ルシウス様の腕が私を抱きしめる力を強めるたびに、胸の奥がぎゅっとなる。
もっと……もっと近づきたい。
気づけば、私もルシウス様の背中にそっと手を回していた。そうすると、彼は一瞬だけ驚いたように体を強張らせ、さらに深く私を抱きしめた。
唇が重なったまま、互いの温度が混ざり合う。
心臓の音が、どちらのものかわからなくなるほどに、溶け合っていくようだった。夢のようなことに、私の胸はどきどきと大きく鳴り、頭がぼんやりとしてくる。
抱きしめて、抱きしめられて、唇が重なる。好きな人がそばに居て、私の事を求めている。
なんて、信じられないほどに、嬉しい時間。そして、信じられないほどに苦しい時間。
……私は、私の欲望に逆らえなかった。
ルシウス様とキスをする。
魔力のせいだとわかっていても、ただ、もう一度したかった。
この求められている事自体が、私の力のせいだとしても。
……ルシウス様の感情を、私が、魔力で誘導した。