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第28話 火事だ、逃げろ!?

 今起こったことをありのまま話すぜ?


 古羊姉妹を助けたと思ったら火事に遭遇していた。


 ナニ言ってるのか分からんと思うが、俺は分かってるから大丈夫☆




「――とか言ってる場合じゃねぇ!? ちょっ!? なんで火の粉が上がってんの!? どういうコト!?」

「お、落ち着いてししょー。コレも佐久間くんのせいだよぉ」

「あのクソ野郎の?」




 どういう意味? と俺が視線で問いかけると、よこたんの言葉を継ぐように古羊が頬に冷や汗を一筋流しながら口をひらいた。




「佐久間くんが吸っていたタバコが近くに落ちていた新聞紙に引火したのよ」

「おい佐久間テメェ!? だからポイ捨てすんなとアレほど心の中で言っただろうが!」

「心の中じゃ聞こえないよ、ししょー?」

「ツッコんでいる場合じゃないわよ洋子っ! アタシたちも早く脱出しないとっ!」

「古羊の言う通りだ! 逃げるぞおまえら!? このままじゃ3人仲良く唐揚げの仲間入りだ!」




 俺の号令を合図に1階の出口まで駆けだす古羊姉妹。


 舞い上がる火の粉を潜り抜け、部屋を飛び出す――前に、重要なコトを思い出す。




「ちょ、ちょっと待って2人とも! この男の人、どうしよう!?」




 そう言った爆乳わん娘の視線の先には、ここまで道案内させた例の大柄の男が気を失って寝転がっていた。


 男は「もう食べられないよぉ~」と呑気なコトを口にするだけで一向に起きる気配が無い。


 その間にもモクモクと黒煙が部屋に充満し、俺たちを焼き殺そうと炎の勢いが増していく。


 チリチリと肌を炙るような熱さを前に、気がつくと俺は野郎に向かって怒鳴り散らしていた。




「ざけんな! 起きろ! このままじゃ全員死ぬぞ!? ……クソ、起きねぇ! 誰だよ、コイツを気絶させたバカは!?」

「ししょーじゃないの?」

「大神くんでしょ?」




 俺だったわ、ヤッベ☆




「クソッ、時間がねぇ!? とりあえずその寝転がって居るヤツは俺が抱えるから、はやく脱出するぞ!」

「う、うんっ!」

「急いで2人とも! ほんとに時間が無いわよ!?」




 古羊の怒声に尻を叩かれ、俺は素早く大柄の男を小脇に抱えて廃ビルの出口を目指す。


 俺を先頭に古羊姉妹があとを着いて来ていて――




「――キャッ!?」

「メイちゃん!?」

「古羊っ!?」




 燃え朽ちて耐久性が無くなったのか、天井が俺たちを分断するように落下。


 結果、会長だけが1人部屋に残されるような形になってしまった。


 しかも最悪なことに、焼け落ちた天井が部屋の出入り口を塞いでしまい、古羊が脱出できない!




「ちょっと待ってろ! すぐにこの邪魔な天井モドキを退かすからっ! 手伝え、よこたんっ!」

「うんっ!」

「もういいわ大神くんっ! アタシの事は放っておいて、はやく洋子とその男性を連れて逃げなさいっ!」

「ナニ言ってるのメイちゃん!?」

「そんなこと出来るワケねぇだろうがっ!」




 トチ狂ったコトを言い始める女神さまを無視して、部屋の出入り口を塞いでいる天井モドキを退かそうときびすを返す俺とよこたん。


 もはや1分1秒も時間が惜しい!


 早く退かさないと!


 焦る俺たちの心を見透かしたように、古羊の至極落ち着いた声音が鼓膜を揺さぶった。




「アタシなら大丈夫よ。部屋の隅にある換気口から一足先に脱出するから。だからアンタたちも、さっさとその人を連れて脱出しなさい。これは会長命令よっ!」




 あの部屋に換気口なんてあっただろうか? と必死に間取りを思い返そうとするのだが、燃え盛る火の粉がソレを邪魔して許さない。


 近くでこの廃ビルを支えているであろう柱の1つが倒壊する音が聞こえてくる。


 ……もう迷っている時間はない。




「メイちゃんをここに残して行けるワケ――」

「分かった、お互い外で合流な。行くぞ、よこたん」

「ッ!? でもししょーっ!?」

「大丈夫だ」




 俺は狼狽うろたえる爆乳わん娘の瞳をまっすぐ見つめながら、小さく頷いた。




「俺たちを信じろ」

「……ししょー」




 よこたんは一瞬だけ逡巡した様子を見せたあと、すぐさま覚悟を決めたようにキリッ! と眉根を吊り上げた。




「わかった、2人を信じるよ」

「よしっ、急げ! もうほんとに時間がないぞっ!」

「先に外で待ってるねメイちゃん!」

「洋子も、ケガすんじゃないわよ?」




 俺たちは部屋に取り残された天使さまから背を向けて、再び廃ビルの出口へと駆け出し始めた。

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