耳を澄ませ2人が遠ざかって行く音を確認し終えた芽衣は、その嘘で塗り固められた虚乳をほっ! と撫で下ろした。
これで少なくとも、あの2人が死ぬことはない。
黒煙と火の手が燃え盛り、いよいよ息をすることさえ苦しくなってきた部屋の中で、芽衣は1人苦笑を浮かべた。
「ようやく行ってくれたわね。もうヒヤヒヤさせるんだから」
そう言って芽衣は部屋の隅へと視線を向けた。
そこには彼女が脱出するための換気口が……なかった。
「ほんと何をしてるんだか、アタシは……」
酸素を喰らい、彼女を焼き殺そうと大きくなる炎から少しでも遠ざかろうと、まだ燃えていない部屋の中央へと移動する。
おそらく自分はこれから死ぬのだろう。
凪のように酷く落ち着いた気持ちで今の現状を分析してしまう自分に、芽衣は思わず笑みを溢してしまう。
「不思議なものね。もっと慌てふためいて錯乱するかと思ったのに……案外人間の最期なんでこんなモノなのかしら」
死にたくない! と泣き
生きたい! と強く願うワケでもない。
ただただ静かに、その時が来るのを待つ自分に、いささか驚きを覚える。
が、すぐさまその理由を思い至り、何とも言えない表情になった。
「まぁ、これはコレで『幸せな
なんせロクデナシの自分が最後の最期には人の命を助けた上でこの世を去れるのだから。
きっと神様もあの世でビックリ
人命救助が出来た上に、この世からお荷物が1人居なくなる……まさにイイコト尽くめだ。
コレ以上のハッピーエンドが他にあろうか?
自分のような女にはあまりに上等過ぎる終わり方だ。
「……もうそろそろかな」
だんだんと熱に犯されたように頭がぼぅっとしてきて、身体に力は入らなくなってくる。
呼吸をするたびに喉が焼かれるような痛みが走る。
だというのに、どんどん意識が遠ざかっていく。
どうやらお迎えが近いらしい。
芽衣は全てを諦めたように、ゆっくりと瞳を閉じ――