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稽古 9

 2日後、高山は整体術の講座に参加することになっていた。教室は事務所の隣にあったが、初めて訪れる場所だ。

 初めて教室を見た高山は自分のイメージと異なった様子に、少々戸惑いを覚えた。

 教室が20畳ほどの広さの畳敷きの部屋だったのだ。整体術の勉強は施術用のベッドで行うものと考えていた高山とって、意表を突かれた感じだった。

 すでにこの日の受講生が2名来ていた。整体術を学びに来ている人たちで、空手の道場の人たちとは異なる。

 伊達の仕事の一つに整体師の教育・育成があるが、この2名はその講座の受講生だったのだ。

 最初の話の通り、内弟子としての修業はまず一般的な知識・技術を身に付けた後からのことなので、一般対象の講座からスタートする。そこには内弟子の御岳も伊達の助手として参加していた。将来整体術でも指導者になれるよう、教室の現場に同席することで教える技術も学んでもらおうという意図があったのだ。

「今日はどんな授業なんですか?」

 興味深げに高山が御岳に尋ねた。

「まあ、見てて。その日の出席者の進度で変わるし、原則として個別指導だから、最初からペアを組んでその相手とそこで指定されたことを学んだり、場合によっては大きなテーマで一緒に学んだりと、武道と同じでその時の状況で変化するんだ。その環境に中で最大の効果が出るような授業になるよ。もちろん、ちゃんとしたカリキュラムがあって、学ぶべき内容は決まっているけれど、それをどう学んでいくかの部分が、普通の学校とは違うんだ。多分、高山君が経験したような勉強スタイルじゃないよ」

 高山にとっては分かったような分らないような答えだった。

 でも、参加していれば、その意味が分るだろうと思った。

 朝9時。

 他の受講生もやってきて、全部で高山を含め6名の受講生になった。空手の稽古の時よりも少ない。やはり内容の濃い授業になるのだろうと、始まる前から期待で一杯になった。

 そこに伊達が現れた。

 2日前に見せた表情とはまったく異なり、そこには柔和で暖かい伊達の顔があった。当然今度は空手衣ではなく、整体師が着ている白衣を着用し、武道家としての感じは微塵もなかった。完全に癒し家の雰囲気である。武道家伊達の顔を知っている高山にとって、本当に同一人物かと疑う気分になるくらいの落差だ。

 その差が、具体的にどのように現れるのか、授業内容とは別の興味が湧いてきた。武道家としての実力は十分分かったつもりだが、整体師としての部分は見たことがないので、それをこの目で見たい、というわけだ。

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