伊達のこの言葉に、ほとんどが耳を疑った。1分足らずの時間で、しかも腰には一切触れていない。痛いのは腰のはずなのに、これで動けるはずはないだろう、というのは大半の気持ちである。御岳を除いては。
半信半疑の木村は伊達の言葉に従った。
まず身体を捻り、右側を下にした横向きに姿勢を変え、右手で上体を起こし、少しずつ立つ形になっていく。恐る恐る身体を動かす木村に、周囲も不安と期待の入り混じった気持ちで見守っている。
ところが、木村は本人・周囲が驚くような感じでスムーズに立てたのだ。
気持ちの中では恐さが残っているものの、とりあえず立てた。このことは木村のみならず、受講生全員の驚きとなった。信じられないといった表情の木村は少しずつ腰を回してみる。
しかし、痛くない。
大きく、あるいは早く動かすことに多少のためらいはあるが、明らかに痛みは消失したのだ。
これには高山を含め、受講生全員がきつねに化かされたような顔になった。それくらい衝撃的な出来事だったのだ。高山の脳裏には、伊達の癒し家としての実力もしっかり焼き付けられた。
落ち着いた時、木村は過去にも同じような状況で腰を痛めたことを話した。今回はその再現だったという。
その時は、完治までに約1カ月を要した。今回も同じような感じなので、瞬間的にそれくらいを覚悟したそうだ。だが、今回はたった一つのツボで、しかも極めて短時間で結果が出た。これは木村にとっては大変貴重な体験であり、何にも変えがたい貴重な学びになった。高山も同じように実感した。
伊達はこの現実を見せた後、なぜこのようなことが可能かを、経絡の考え方から説明した。それはこの日の最初の頃の話と重複する部分はあるものの、その理屈が現実化した時の実際を目の当たりにした時は、頭の中に入っていくレベルが違う。
学んだことが現実に効果を出せるということを知り、この日の受講生の顔は一様に紅潮していた。
「御岳さん、先生はいつもこういうことをなさっているんですか?」
高山も声が少し上ずりながら、御岳に尋ねた。
「いつもというわけじゃないよ。だって具合が悪くなる人が都合よくしょっちゅう出ることはないからね。俺の場合、内弟子になって長いから、似たようなケースは何度か見たよ。だから今回のことも安心して見ていられたんだ」
御岳のこの言葉に、これからの内弟子経験の中でどんなすごい場面に出会えるのか、今から期待が膨らむ高山であった。