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稽古 16

 初めてづくしの一般稽古が1ヶ月以上続いたある日、伊達は高山を事務所に呼んだ。入門後の意識を確認するためだ。

 事務所には伊達が待っていて、そこに高山が現れた。

 伊達は高山の表情から今の心境を読んだが、大変晴れやかで、目もイキイキしている。十分環境に適応し、充実している心境がうかがえた。

「高山君。少しは慣れたかい?」

「おかげさまで。これまでの空手が何だったのかと思う毎日です。本当に内弟子になって良かったと思っています」

 心の底からの言葉だった。

 この1ヶ月、たしかに大きな環境の変化があったので、大変だったところもある。しかし、それをはるかに上回る満足感を得ていたのだ。

 空手道の奥深さを知り、その対極にある「活」の部分も知り、思い描いていた活殺自在の現実を、たった1ヶ月の間にもお腹一杯になるくらい経験していたのだ。

 しかし、まだ内弟子稽古には参加していない。そこではまたどんなことが待っているのか、興味は尽きなかった。それがますます内弟子生活に対する期待感を高めていたのだ。

 そういう高山の心を読んでか、伊達が言った。

「そう。それは良かったね。今後、周りの人の応援にも応えていかなければいけないが、空手については経験者だから、予定より早いが明日から早朝稽古にも参加してもらおう。整体のほうはまだ一般部で基本を勉強してもらうことになるが、空手は明日から内弟子としての稽古を開始する。そのつもりで」

 思いもかけなかった言葉だった。一瞬、高山の目が点になった感じだった。

「…ありがとうございます。一生懸命、頑張ります!」

 返事に詰まったが、思った以上に早く内弟子稽古に参加できることになり、高山は天にも昇る気持ちだった。

 伊達に認められた、そして、他の内弟子の先輩と一緒の稽古ができるんだ、という喜びで心が満たされた。

 同時にこれからが本格的な内弟子なんだ、という実感も湧いてきた。まだ整体のほうは一般部だが、これも一生懸命勉強して、早く内弟子として教えてもらえるよう頑張ろうと、密かに誓った。

 話が終わると高山は、伊達に一礼し、事務所を後にした。

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