次の日の早朝、高山は道場に顔を出した。そこにはすでに、高山を除く全員が集まっていた。
遅れてきたこと申し訳なく思いつつ、素早く道衣に着替えた。
着替えがすんだ時、伊達は高山を呼んだ。伊達の横に立った高山は、緊張しながらも晴れやかな様子だった。
「みんな。今日から高山君も早朝稽古に参加する。ここは一般部とは異なるが、お互い一緒に頑張ろう」
伊達から簡単な挨拶があった。
「よろしくお願いします」
高山も全員に一礼し、挨拶をした。その後、末席に移動し、整列した。
全員が整列したところで、内弟子最古参の御岳が号令をかけた。
「正座!」
一斉に正座をする。統制が取れ、外から見たら大変きれいな動きだ。
「正面に対して礼!」
伊達の号令で一斉に礼をした。伊達が向き直り、今度は御岳が号令をかけた。
「先生に、礼」
互いに礼をし、伊達はまた正面を向いた。
「では、これから黙想に入る。黙想!」
稽古前によく行なわれることだが、ここでの黙想は違った。普通、黙想の時間は短くて1分か2分、長くても数分だが、いつまでも『止め』の声がかからない。
「いつまで黙想が続くのかな」
高山は思った。
同時に、足もだんだん痺れてくるのを感じている。姿勢をまっすぐ保つことも辛くなっていく。自分の内側が乱れていくのが分かる。ちょっと薄目を開けて周りを見渡すが、他の内弟子が動いている様子はない。やはり自分だけなのだろうか、そんな気持ちが高山の中を駆け巡った。
時間にして30分くらい経った頃だった。
「黙想、止め」
伊達の声がした。
やっと終わった。これで立てると思ったが、足が言うことを聞かない。完全にしびれたのだ。他の内弟子は難なく立っている。高山はやっぱり自分だけができていなかったことを悟った。
同時に、次は何をやるのか、この足で大丈夫だろうか、という心配がよぎった。その不安が顔にも現れていたのだろう、隣にいる堀田が高山に小さく声をかけた。