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選挙という戦い 2

 1時間後、伊達のもとに内弟子全員が集合した。

「みんな、よく聞いてくれ。私の知人で、現在K市の市会議員をやっている若林という人がいる。実はその人が来月行なわれる市長選に立候補することになった。しかし、立候補予定者の中に問題のある人がいて、期間中いろいろな形で選挙妨害をやってくる可能性がある。そのため私のところに警備を依頼してきた。私としては引き受けるつもりだが、そのメンバーをこの中から選びたいと思う」

 伊達の言葉に一同、驚いた。互いに目を合わせ、首をかしげる者もいる。御岳は元自衛官の経験があるだけに、「警備」という言葉とその意味が理解できたが、他の4名は様子が飲み込めない。

 伊達が続けて言った。

「突然の話なので理解できないのも無理はないが、通常の選挙運動の手伝いをしながら、もしその最中に候補者に危害が及ぶような行為をする者がいた場合、速やかに候補者の安全を確保する、といったことだ」

 危害という言葉に少しざわついた。

「刃物で切りかかってくるようなこともあるんですか?」

 松池がちょっと心配げに質問した。内弟子の中ではおとなしいタイプなので、危害という言葉に一番反応したのだ。

「そんな時はやっちゃえばいいんだよ」

 昔のことを思い出したのか、龍田が言った。昔、暴走族にいた頃はしょっちゅう暴れており、刃物を使った喧嘩の経験もあった。こういう話にはもっとも過激な発言が出る。

 だが、これは暴走族の喧嘩ではない。伊達は考えられる危害の範囲を説明した。

「そんなところまでいったら場合によっては命に関わるし、それが対立候補の指示だったと分かれば、選挙の勝ち負けどころではなく、犯罪行為になる。刑事事件だ。そこまではいったら全てが終わるから、今回は考える必要はない。もっとも、武道的な考え方からすれば、何時如何なる場合でも対処できるだけの能力は必要とされるが」

 松池から刃物といった言葉が出た時には多少の動揺があったが、伊達の説明で全員、安堵の表情を見せた。

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