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選挙という戦い 4

 特別稽古初日。

 伊達を前にして、全員道場に揃っている。この日は朝稽古が特別稽古になった。この状態は選挙まで続くと伊達は言った。時間が許せば、空手や整体の一般稽古の合間にも行うことも告げられた。「特別」という表現がみんなの興味を集め、何を教われるのか興味深げな目をしていた。

 伊達は全員に目配せして、静かに語り始めた。

「これから来月のための特別稽古を始めるが、その目はどんな技を教えてくれるのか、といった感じだな。秘技みたいなものが出てくることを期待しているようだが、そういうことはない。目的はあくまでも特定の人物をどう守るかということだから、相手を叩きのめすための必殺技的なものはない。まず、この点をきちんと理解しなさい」

 伊達の言葉に多少拍子抜けの表情だ。特に血の気の多い龍田の表情にはその心情がよく表れていた。もちろん高山もそういう気持ちが強かったが、龍田ほどの表情の変化は無かった。

 そういう雰囲気の中、伊達は続けて言った。

「では、まず不審人物の見つけ方だ」

 具体的な武道の技ではない。

 だが、伊達にとってはこれも重要な武道の技であり、むしろ表芸としての武技でなく、このような見えない部分を裏の技として尊ぶ意識を持ってもらいたいと思っている。特に今回のような場合、派手な立ち回りは控えなければならない。トラブルを未然に防ぐことこそ真の武道であり、武の心と理解させたいのである。

 しかし、ここに集まっているのは内弟子を志すほどの血気盛んな若者たちだ。そのような伊達の気持ちが伝わらないのか、表情が一様に固い。やはり、派手な技を学びたい、といった念を発している。

 その様子を見ていた御岳は、内弟子最年長ということで気を利かせ、伊達の言葉をそのまま受け、次の話題へと持っていった。


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