念を押すようにみんなの眼を見て言った。そこには内弟子を危険にさらしたくない伊達の気持ちが込められていた。
そのことは分かったが、いざその場に立つと捕まえるまでやってしまうかもしれない、と思う高山と堀田であった。
その気持ちを表情から感じ取った伊達は、高山と堀田をモデルに具体的な対処法を指導することにした。そこからこういう場合にどこまで、何をやれば良いのかを理解させようとしたのだ。
「では、堀田君と高山君、前に出なさい。私が若林先生の役をやる。堀田君、私のガードについて。高山君は暴漢役になって、そこにある箱を私に向かって投げなさい」
他の内弟子が見守る中、高山と堀田は言われた通りの配置になり、箱を投げた。だが、本気でない分、避けるほどのことではなかった。
「しっかり投げなさい。そんなことでは全然稽古にならないじゃないか」
伊達が叱った。
2度目、高山は伊達にぶつけるつもりで投げた。
その時、本来なら堀田は素早く適切な行動を起こさなければならなかったが、初めてのことでもあり、まったく動けなかった。そもそも、自分の立ち位置を理解していなかったし、咄嗟の時、どういう行動をとったら良いのかも分からなかったのだ。だからこの時、伊達は飛んでくる箱を自分で払った。
「堀田君。こういう時、咄嗟の行動がどうできるかが大切なんだ。今回は箱が飛んでくることが分かっていたはずだ。たぶん自分のほうに飛んでくるのなら避けることができただろうが、人を守る動きというのは易しくないだろう。それだけ他人を意識した動きというのは難しいんだよ。だからこそ稽古になるんだ。みんなも私が言っている意味が分かっただろう。しばらくはこういうことを中心にやっていく」
現実を見せられては納得しないわけにはいかない。全員、伊達の言葉に従った。
「では、今のように物を投げられたという設定の場合、どうすればいいと思う?」
伊達が尋ねた。
「若林先生を引き寄せたり、自分が身代わりになる、といったことですか?」
御岳が言った。
「ここでは身代わりというところまで要求しない。物によっては自分自身が危ないだろう。だから、今の回答の中では、投げたものに当たらないように引き寄せるというのがいいだろう。しかし、具体的にはどうする?」
伊達の言葉に御岳が前に出てきた。今、答えた関係上、見本としてどうするかを説明するつもりだ。