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選挙という戦い 12

 選挙活動が始まる初日、堀田と高山は若林の事務所にいた。選挙専門のスタッフは車の準備や街頭演説の場所の確認、炊き出しなどの準備と大忙しだ。いずれも今日が初日ということで、大変気合が入っている。

 だが、高山たちは警護のための要員なので、2人で伊達から指示されたことを確認していた。

 今回は地方の首長選ということで7日間の戦いになる。おそらく具体的な妨害があるとしても、ある程度流れが読める後半になるだろうと予想される。間接的な妨害行為は怪文書などがすでに流されているが、その対策は別のスタッフの仕事だ。高山たちのメインの仕事は、特に街頭演説の時が重要になる。

 だから、前半は選挙そのものに慣れるため、若林が事務所にいる間は他のスタッフと一緒に、葉書の宛名書きや電話などの手伝いも行なうことになっている。堀田にしても高山にしても、本当の選挙の経験はないので大変新鮮な感じだ。

 そういうことを話しているうちに、今日のスケジュールということで、選対本部長から演説の予定時間と場所が発表された。

 それに対応して地図で場所を確認し、2人はどういうシフトにするか相談した。時間をほぼ二分し、担当を分けた。初日の前半は堀田が若林のそばでマイクを持つ役を務め、後半を高山が務めることにした。もう1人は聴衆の中に入り込み、不審者のチェックを行なう。これらは事前に伊達から指示されていたことだ。

 打ち合わせが済んだところで、若林が事務所を出発する時間になった。

 予定通り、まず堀田が若林の車に乗り込んだ。高山は別の車で演説の場所へと同行した。

 すでに支持者の人を中心に、ある程度の人数が集まっていた。到着後、堀田は一番最初に演台に上り、マイクの準備をした。もちろん、教わったような動きができるよう、スペースの確保にも留意した。そして高山は、聴衆の中に自然に入り込んだ。人の集まり方を見て、どこにポジションを取るのが一番効果的かを考え、高山なりに納得のいく場所を選んだ。

 一連の準備が整った後、若林は用意されていた演台に上り、演説を始めた。大きなジェスチャーを交え、力強く聴衆に語りかける姿は堂々としていた。そこで語られる話は、K市の将来についてであり、市民への思いが滲んでいた。事前に伊達から若林の考えを聞いていた堀田と高山は、その言葉に嘘はないものと信じていた。

 しかし、2人は演説を聞いている聴衆ではない。あくまでも若林の警護だ。すぐに本来の目的を果たすべく、それぞれのポジションで気持ちを引き締めた。

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