昼過ぎの事件の後は何事もなく、最後の予定まで無事終了した。
堀田は会場の後片付けの手伝いをすることになったが、若林は先に事務所に戻り、高山は警察に出頭することになった。昼間の事件の事情聴取だ。
「先生、これから警察に行ってきます」
高山が若林に挨拶をした。生まれて初めて体験する警察の事情聴取ということで、緊張の色を隠せない。
その様子を見て、若林が言った。
「ご苦労様。今日は本当にありがとう。高山君や堀田君の活躍で、大きなトラブルにならず助かったよ。やはり伊達先生にお願いしておいて良かった。昼間のことは私からも署長にきちんと話しておくから、心配しなくて良い。君がやったことで何か問題になるようなことはないはずだ」
笑みを浮かべながら若林が言った。高山は若林の話や顔を見て、少し気持ちが軽くなった。
「では、失礼します。終わり次第、事務所に伺います」
高山はそういって会場を後にした。
15分後、高山は警察署の前にいた。若林の言葉から多少安心したが、こうやって玄関に立ってみると、やはり心は動揺していた。何か罪に問われるのではないか、不審者とはいっても、もし大怪我をさせていたのであれば、申し訳ないと思う気持ちもあった。
同時に、もしあの時きちんと対処していなかったら自分だけでなく、周囲の人に危害が及んでいたかもしれないし、やはりあの時の対処は正しかったんだ、と言い聞かす自分の心も認識していた。
しかし、いずれにしても警察で話さなければならない。高山は意を決して中に入っていった。
受付のほうに行くと、いろいろな人が訪れていた。受付の人の手が空くのを待って、来署の用件を伝えた。
「あのう、高山と申しますが、若林先生の立会演説の時のトラブルの件で伺ったのですが…」
普段の高山と違い、ちょっと声が小さめで、身体を小さくしたような感じで告げた。