「高山さんですか。ご苦労様です。話は伺っていますので、こちらにお越しください」
思った以上に丁寧な対応だった。
何か拍子抜けした感じだったが、受付の人の後に付いて行き、ある部屋に入っていった。
一斉に中にいる人たちが高山のほうを注目した。その雰囲気は独特のものがあり、中には人相の悪い人もいる。
正直、高山の心中は穏やかではない。悪いことをやった覚えはないのだが、この雰囲気には飲まれてしまった。実はここは刑事たちが詰めている部屋だったのだ。
ドラマなどで見かける感じで、奥のほうに応接用の椅子やテーブルがあった。
2人の刑事が高山のほうに近づいた。
「ご苦労様。こちらへどうぞ」
高山は、もしかすると鉄格子の入ったところで事情聴取されるのかと覚悟していたが、連れて行かれたのは部屋に入った時に目に入った応接用の場所だ。内心、ホッとした高山だった。
「若林先生から電話をいただいたよ。昼間は大変だったね。怪我もなく良かった。あの時に周囲にいた人たちからも話は聞いているが、当事者である君にも話を聞かないといけないから、協力してください」
1人の刑事が言った。若林先生が電話してくれていたと聞いて、高山は心強く感じた。
「はい。何でもお話します」
緊張した面持ちで答えた。
「そんなに緊張しなくていいよ。君がやったことは正当防衛の範囲だし、それには証言もある。相手の足にはダメージはあるけれど、打撲だ。骨が折れているわけでもない。過剰防衛にはならないよ」
ここで高山の緊張は全て解けた。罪にならないということと、相手のダメージも打撲程度で済んだと聞いて、大怪我していないかという心配も消えたのだ。
そういう話をしているうちに、お茶が運ばれた。緊張で喉が渇いていた高山は、出されたお茶を冷ましながら一気に飲んだ。
その後、2人の刑事から約1時間に渡って質問された。それに答えた高山は、ある意味、今日一番の山場を無事に乗り越えた気持ちになった。
途中、高山の個人的なことも聞かれたが、現在、伊達のところで武術の内弟子修行をしていることを話した。今の時代にそういう人たちもいるのかと、話を聞いていた刑事は感心していた。
そういう会話は事情聴取の場を和ませるのに役立ったが、今日の事件を振り返った時、やはり内弟子として本物の武術を学んでいることを改めて実感していた。
事情聴取が終わり、高山は刑事に一礼し、警察署を後にして、若林の事務所に向かった。