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選挙という戦い 19

 高山は若林の事務所に戻った。ドアを開けると、堀田がすぐに出迎えた。満面の笑みを浮かべ、目はキラキラしている。

「高山さん、おかえりなさい。今日は大活躍でしたね。僕も役割が違っていたら同じようなことができたかなあ」

 高山の顔を見て、昼間のことを興奮気味に話した。その中には、ちょっとうらやましそうな表情も隠れていた。堀田の頭の中には、高山が警察から帰ってきたばかりということはすっかり飛んでいて、昼間の活躍だけが占めていたのだ。

 その様子を見ていた他のスタッフが、2人に声をかけた。

「立ったままではゆっくりできないでしょう。こちらに来て、座って話したら?」

 話に夢中になりそうな状態だったが、この言葉で我に帰り、2人は奥の椅子に腰掛けた。座って落ち着いても、堀田の目は高山を凝視している。堀田は身を乗り出しながら、一生懸命語りかけた。

「僕は若林先生の近くにいたから、高山さんの活躍を間近で見ることはできませんでしたが、遠目に下段の回し蹴りが光って見えましたよ。回し蹴りというより、膝蹴りにも見えたけど…」

「俺も無我夢中だったからね。今になって思うとちょっと冷や汗ものだけど、その時は不思議と落ち着いていたんだ。何か、変に余裕がある感じでさ」

 堀田の興奮よりは少し冷めた感じで高山が言った。高山の場合、つい先ほどまで警察で事情聴取があったため、堀田のように熱くなりきれていないのだ。

「そうなんですか。やっぱり内弟子効果ですかね」

 堀田は今回の件も、内弟子修行の成果として考えたいらしい。高校を中退してまで内弟子になりたかったという情熱家だ。全てのことをプラスに結び付けたいのだ。

 それに対して高山は冷静に答えた。

「はっきりは分からないけど、俺はそう思う。その時ね、ふと学生時代のことを思い出したんだ。あの頃のままだったら多分、手足が震えて上手く動けなかったと思う。まだ内弟子になって時間は短いけれど、何か確実に変わったことを感じているんだ」

 堀田の話し方とは対照的だったが、高山にも内弟子効果という実感が確実にあった。それがこういう返事になったのだ。

「そうですか。じゃあ、たぶん僕もその場に立ったら同じように感じたんでしょうね」

「似たようなものだろうね」

 2人は内弟子入門により、内なる部分で確実に変化していることを互いの言葉から感じていた。


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