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選挙という戦い 20

 そこに若林がやってきた。

「高山君に堀田君、大変お疲れ様でした。特に今日は危ないところを助けてもらい、感謝しています。2人に怪我がなくて本当に良かった。もし怪我でもされていたら、伊達先生に合わす顔がなくなるからね」

「そうおっしゃっていただけると、照れてしまいます。自分たちは自分たちのやるべきことをやったまでですから」

 高山が答えた。

「それから、警察のほうもお疲れ様でした」

「あっ、そうか。高山さんは警察に行ってきたんですよね」

 堀田が思い出したように言った。

「そうだよ。それで今、事務所に戻ったんだよ」

「すっかり忘れていた」

 堀田が頓狂な声で言った。周りにいたスタッフは一斉に爆笑した。

「何だ、堀田君は今まで気づかなかったのか?」

 スタッフの一人が言った。

「はい」

 その返事にまた一同、爆笑した。

「ところで、警察ではどうでした?」

 場が落ち着いたところで、若林が高山に尋ねた。

「おかげさまで。先生があらかじめお電話していただいていたおかげで、対応はとても丁寧でした」

「それは良かった。恩人が不愉快な思いをしたのでは、本当に会わす顔もなくなるからね」

「やはり、テレビでよく見るような、鉄格子の窓がある部屋で事情聴取されたんですか?」

 堀田が真顔で質問した。ドラマの影響だろう、そのようなシーンをイメージしたのだ。

「そんなことはないよ。普通の応接用のところでいろいろ聞かれた。1時間もかからなかったよ」

「そんなものなんですか。もしかすると、カツ丼でも出されたのかな、と思いまして…」

 堀田のこの言葉で、また全員が大笑いした。

「堀田君、それはテレビの見すぎだよ。別に高山君は悪いことをした犯人でもないし、罪を認めるような供述が必要なわけでもない。昼間の件で話を聞かれるだけだからね」

 若林が諭すように言った。

「堀田君はカツ丼を食べたかったの?」

 スタッフの1人が堀田に言った。

「そんなことはありません」

 慌てて否定した。その様子に別のスタッフがまた堀田に言った。

「警察に行ったのが堀田君だったら、カツ丼が出ない、ってことでクレームつけていたかもね」

 この一言は、一番大きな笑いを誘った。

 今日のトラブルを吹き飛ばすような明るさに、事務所にいる全員、救われたような思いだった。

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