その後、若林に対する直接的な妨害はなかった。無事に選挙運動が終わり、後は投票を待つだけだ。
投票日当日、若林やその後援者はもちろん、伊達や内弟子も全員揃い、選挙事務所で投票結果を見守っていた。
他の自治体でも市長選をやっているため、TVでも地域のニュースとして流されている。ニュース以外の番組では、画面に片隅にテロップで報じられている。結果は深夜に判明する模様だ。全員が流される選挙速報に見入っていた。
選挙運動中盤の中間調査では、問題の権藤候補が若干優勢だったが、発表される数字を見ていると、若林のほうが良い流れになっている。
「これは期待できるぞ」
後援者の一人がつぶやいた。
3人の立候補者のうち、争っているのは若林と権藤の2人だ。実質的に一騎打ちの様相を呈していたが、票の伸び方から若林のほうに勢いがあることが読み取れたのだ。
それから1時間が経った。若林の名前に当確の表示が出た。
「やったー。当選です。おめでとうございます」
口々に若林の当選を祝う声が事務所の中に響いた。伊達をはじめ、内弟子一同も同様に喜んだ。事務所内は騒然となった。若林は詰め掛けている支援者やスタッフたちと、両手でしっかりと握手をしている。若林からは感謝の言葉、支援者からは激励の言葉が交わされている。
この瞬間、これまでの苦労が一気に吹っ飛んだ。
「みなさん、本当にありがとうございました。皆様のおかげでこの若林、当選させていただきました。これからはK市のため、骨身を惜しまずがんばります。ますますのご支援をよろしくお願いいたします」
若林は必勝祈願のポスターの前に立ち、事務所を訪れている人の前で深々と頭を下げ、挨拶をした。当選御礼の言葉に、事務所内はさらに大きな歓声が上がった。事務所内は祝福のムード一杯で、出されたお茶や軽食を口にしていた。
その時、ニュースが始まった。事務所にいる人は全員、TVの画面を見入った。ローカルニュースのため、K市の市長選の模様を伝えている。そこには、若林の当選結果と喜ぶ支援者たちの映像も映っている。
「俺たちもTVに出るかな」
TVを見ていた龍田が言った。
高山と堀田以外の内弟子は、選挙事務所には顔を出していない。だから知っている人もいないため、内弟子同士で固まって話していた。
「出るかもね。でも出るなら高山なんか今度活躍したから、ちょっとくらい映してもらいたいよな」
御岳が言った。