そういう話が続く中で、アナウンサーが臨時ニュースを読み上げた。事務所内にいた全員が、何のニュースかと思い、聞き耳を立てた。
「本日K市で行なわれた市長選に絡んで、逮捕者が出た模様です。かねてから疑惑のあった権藤候補の贈賄容疑について、関係者が逮捕されました。選挙期間中、対立候補の若林氏の選挙妨害で捕まった斎藤容疑者が、取り調べ中、権藤候補の贈賄の裏事情も話し始めました。今後調べによっては、権藤候補にも捜査の手が伸びてくるかもしれません。このニュース、進展がありましたら、随時お伝えいたします」
若林の選挙前にいるアナウンサーが、少し興奮気味に話している。
事務所内にいた人は顔を見合わせ、やっぱり、といった表情をしている。
「あの不審者は権藤の関係者だったのか。今回の妨害で贈賄問題にまで捜査の手が伸びることになったのは皮肉だが、悪いことはできないものだな」
若林がつぶやいた。同時に、今後市政に対し、しっかりした舵取りを行なっていく決意を新たにした。
伊達はその様子を見て、若林のほうに近づいた。
「若林先生、これからのK市、良くなりますね。期待しています。我々はこれで失礼いたしますが、落ち着いたらまたお邪魔いたします」
「伊達先生。今回は本当にお世話になりました。先生のお力添えのおかげで勝てました。ありがとうございます」
若林は伊達と強く握手を交わしながら、お礼の言葉を述べた。そして、高山と堀田のほうに目線を向け、お礼を言った。「それから、高山君と堀田君。本当にありがとう。妨害事件の時、君たちがいなかったらどうなっていたかと思うと、いくら感謝しても足りないくらいだ。今後、君たちのような若者がしっかり育つ環境を作っていきたいと思います。君たちの立場からもいろいろ話を聞かせてください」
若林の丁寧な挨拶に、高山も堀田も恐縮していた。そして、恥ずかしそうにうなづく2人だった。
伊達をはじめ、内弟子一同が若林に一礼し、事務所を後にした。