帰り道、伊達を中心に内弟子が話しながら歩いていた。伊達は高山に近づき、声をかけた。
「高山君。大立ち回り、大変だったね」
ギロッと睨むような目で高山を見て言った。その言葉には多少のトゲを含み、何か分らないけれど凄みがあった。高山はこれまで見たことのない伊達の様子に驚いたが、何を言いたいのかよく分らず、半分キョトンとしていた。普段と異なるその雰囲気は他の内弟子も感じ、それまで楽しそうに話していた会話がピタッと止まった。伊達と高山の会話に耳が向いてしまい、全員、足も止まった。高山が叱られている、と思ったのか心配顔になる者もいる。
しかしこれはそういう意味ではなく、高山がもしそれで怪我でもしていたらということを案じ、それを分からせるための話だった。
「私は言ったはずだ。自分の身に危険が及ぶようなことは避けるようにとね。私は君たちを預かっている立場上、どこまでが大丈夫かというラインをいつも考えている。今回のことは結果的には良い形になったが、一歩間違えれば大変なことになっていたかもしれないんだ。今後はそこをよく考えて行動してほしい」
伊達は高山のほうを見て言ったが、その後目線を全員に向け、目で分かったか、というサインを送った。
「はい、申し訳ありませんでした。その時はつい夢中になってしまって…。でも先生、まだ入門してそんなに経っていませんが、実際の立ち会いで以前の自分と全然違うことを感じました」
伊達に反発する意図はなかった。高山は、内弟子として入門後、スポーツ武道ではない本来の武術を学び、確実にステップアップしたということを伝えたかったのだ。
しかし、伊達はそういうことを言わせたかったのではない。武の意味と、強さに溺れない心を諭したかったのだ。
「そう、じゃあ、私と今、ここでやってみるかい?」
先ほどにも増して険しい目つきで伊達が言った。他の内弟子たちも落ち着かなくなっている。
「えっ? 先生とですか。それは勘弁してください。いくら強くなったと思っても、やっぱり先生は雲の上の人です。いくら頑張っても絶対に勝てません」
両手を前に出し、左右に振りながら後に下がりながら言った。腰が引け、なるべくその場から遠ざかりたい、といった雰囲気がにじみ出ていた。