特別稽古初日。いつもの早朝稽古はこれまで通り行なわれた。
ただ、今日は終日、特別稽古になる。しかも、身体を動かすだけではない。学校のような座学もあるのだ。その部分については、龍田以外は結構興味を持っている。だが、座学の話には龍田の意識が上がらないのだ。
もちろん、整体術・活法を学ぶ時にも座学はあったが、そういうことであれば龍田も問題なく受講していた。
しかし、今日の座学は活殺自在に関係するとはあまり思えないと考えている気持ちが龍田の中にあり、それがノリの悪い部分を作っているのだ。
だが、予定は予定だ。時間は過ぎていく。今日は朝食後、特別稽古の最初の座学が始まる。
朝食はみんな一緒に簡単にとることになった。こういうことは心を一つにする意味がある。そこで少しでも龍田の意識が変わればという期待が、伊達をはじめ、他のみんなの心の中にもあった。なるべく食事中に良い雰囲気を作り、そこからうまく座学に持っていければという思いで朝食を囲むことになったのだ。
なるべく時間の無駄を省くため、朝食は事務所と教室を活用することになっている。実は事務所の奥には簡単な台所があり、そこで調理し、教室で食べることができる。朝食のメニューはトーストとジュース、スクランブルエッグとベーコン、フルーツといった内容だ。これくらいのものであれば事務所の台所でも十分作れる。
教室と事務所は隣同士なので、作ったら運んでくることになるが、そこは全員で手分けして行なう。
調理する役は御岳だ。自衛隊時代、野営の訓練で手早く料理を作っていた経験がある。事務所にある台所くらいの設備があれば、お手の物なのだ。手際よくテーブルに料理が運ばれる。普段は教室として使用しているため、ここに料理が並んでいると違和感を覚えるが、何だか意識が一つになったような感じがして嬉しい。それは龍田も含め、全員が同じ気持ちだった。
全員分揃ったところで食事が始まった。
「いただきます」
並んでいる料理は、トースト以外は1人分ずつそれぞれに用意してある。そのため、一斉にトーストに手が伸びた。
食べ盛りの若者たちであり、しかも早朝稽古で身体を動かした後だ。お腹が空いているのは誰が考えても分る。
「そんなに慌てなくてもトーストは逃げないよ。お代わりはいくらでもあるから、お腹一杯食べなさい」
その様子を見て伊達が言ったが、言葉を聞いてか聞かずか、みんなの食欲は変わらない。伊達は嬉しそうにその様子を見ていた。元気の源である食事をきちんと摂れるかどうかは、とても大切なことだ。みんなの食欲は、その証明のようなもので、伊達には改めてそれが頼もしく思えたのだ。