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怪我 26

 他の内弟子の場合、伊達の施術現場はこれまで何度か見学している関係で、似たようなシーンはこれまでも見ていた。しかし、高山にとっては初めて本気で行う伊達の施術を見たため、堀田の具合が良くなってほしいと思う気持ちと同じくらいの感じで、どういうことを行うのかに興味があったのだ。

 左右の脚に対しての調整が終了すると、今度は腹部の調整に移った。

 伊達は龍田の両膝を立て、お腹の上に両手を置いた。そのまま静かにうどんかそばをこねるような感じで手が動く。内臓を内側に寄せているようにも見える。その動きに合わせ、時々堀田のお腹からゴロゴロといった音が聞こえる。

 伊達の手の置き方が変わった。右手の指先を頭方向、掌底部を足方向に向けて身体の中心線上に置き、左手を腰の下に敷いた。

 この形で徐々に下腹部を呼吸に合わせて静かに押さえ始めた。だんだん堀田の下腹部の緊張が解けていくのが、傍目に見ても分かった。それを見計らって右手の指先を恥骨のすぐそばにやや立て気味に置き、左手を腰の下から抜き取って重ねた。その状態で静かに呼吸のリズムに合わせ、先程よりも深く入るよう圧を加えた。そこから左右に少し指をずらし、同様の押圧を行った。客観的に見ても手で感じる抵抗が少なくなったと思えるところで施術は終了した。

「さあ、立って。痛みはどうだい?」

 堀田は恐る恐る立って、痛みの感じを確認した。立った瞬間は何も感じなかったので、腰を動かすなどしてどこかに痛みが残っていないかを探す動きをした。

「あっ、痛みがなくなっています!」

 これまでのことが嘘だったかのような、キョトンとした感じで答えた。

「本当か?」

 内弟子たちは口々に確認した。しかし、痛くないものは痛くない。堀田にはそれ以外の言葉はなかった。同時に、それを体験した堀田は大変嬉しく思った。そのことは怪我をさせた高山にとっても、別の意味で嬉しいことだった。

「今やったことで、打撲によって生じた欝血がかなり解消されたはずだ。それが残っていた不快感や痛みを取り去ることになった。こういう時に整体術は大変役に立つ。今回のことは怪我のアフターケアの具体例だ」

 伊達の説明に、内弟子は全員うなづいた。整体術の応用例を見ることができ、みんなの心の中にはさらに活殺自在の意識が高まっていた。

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