その様子を見た伊達は、今、話しておかなくてはならないことがあると思った。
「ではみんな、場所を講義室に移して、そこで今回のことに絡んでレクチャーをする」
全員、講義室に移動した。伊達が何を話すのか、全員興味津々だった。堀田の様子が劇的に変わり、そのことを全員で確認した後の講義だ。どんな秘話が飛び出すのか、興味はその一点に集中していた。
「今日は特別稽古というわけではないが、今回のことをきっかけに、みんなが内弟子として入門した目的である活殺自在の意義が理解しやすくなったのではないかと思えるので、ちょっと話をしておく」
これまでの様子を見ていた伊達は、活殺自在といっても、血気盛んな若者には武術の稽古のほうに意識が向くことが多いと考えている。それはそれでその年代でしかできないことがあるので認めているが、同時にそれだけでは、前途ある若者の未来を奪いかねない重大なことが起こるかもしれない、といった危惧も持っている。今回の事故を通して、内弟子にこの点を分かってほしいと思ったのだ。
「さて、今回のことは組手の最中に起こった事故だが、何が原因だっただろうか?」
伊達がみんなの顔を見ながら問いかけた。
「自分が蹴ったことです」
高山は自分のところに伊達の目線が移った時、神妙な表情で答えた。
「たしかに、今回の件としてはそうだが、誰にでも起こりえたことだ。今回は堀田君が怪我をし、高山君が怪我をさせたという形になっているが、ちょっとタイミングが狂っていたら逆だったかもしれない。もしかすると、その前にやっていた御岳君と松池君の時に起こったかもしれない。そういう意味では、誰にでも有り得たんだ」
伊達は高山だけに視線を合わせるのではなく、全員に対して確認するような感じで話した。そう言われると、それまで伊達の話に過度に期待するような、ちょっと上気した感じの表情が変わり、一同落ち着いた表情になった。その様子を見て、伊達が続けて言った。
「ここにいるみんなは『活』の技と『殺』の技を身に付けたいと思って集まったと思うが、その前に『心』が必要なんだ。『技法の前に心法』という意識ができなければ、表面的な形はできてもそれは本物ではない。ハリボテみたいなものだ。そこに魂を入れなければならない。『武』はもともと『活』と『殺』の要素からできているが、『殺』ばかりに『心』を取られていると、反対側が見えなくなる。片翼で飛んでいる飛行機のようなもので、すぐに失速してしまう。だから、その反対の極にある『活』の意識を理解することでバランスを取るんだ」