伊達と御岳が話しているところに、他の内弟子たちがやってきた。
「御岳さん、どうしたの? 今日の内弟子稽古、休みだったじゃないですか」
龍田が尋ねた。
「…うん、ちょっとね…」
言葉少なく御岳は答えた。誰が見ても憔悴している様子から、何かあったということはみんなにも分かった。御岳にしても、伊達には話せても、内弟子の後輩たちにはなかなか話せない。それはやはり、内弟子の長男格としてのプライドと同時に、必要以上に心配をかけたくないという気持ちからだった。もともと口下手なタイプのため、変な説明で誤解を受けたくない、ということもあった。
そういう思いから、御岳は口をつぐんでいる。みんなの心配は募るばかりだった。でも、御岳が話さないと何も分からない。
御岳と他の内弟子の様子を見て、伊達がいきさつを話した。
「私が代わって話そうか」
伊達は御岳に目配せをした。御岳も自分で話すより、伊達からきちんと話してもらうほうが良いのではと思っていたので、静かにうなづいた。
「御岳君は、しばらく内弟子修業を休むことになった」
全員を見渡し、静かに伊達が言った。
「えっ? どうしたんですか?」
内弟子たちは互いに顔を見合わせ、口々に尋ねた。その表情は驚きで一杯だった。
「実は、御岳君の病気が見つかった。それでその治療に専念するため、一時郷里に帰ることになった」
伊達が説明した。
「何の病気ですか?」
「重いんですか?」
「また、帰ってくるんですか?」
いろいろな質問が矢継ぎ早に飛び交った。内弟子の長男格の病気である。内弟子というのは家族も同然で、伊達を親として内弟子は子供といった関係だ。家族に病人が出て心配しないわけはない。ましてや他の内弟子からすれば兄貴分だ。隠れたところでいろいろ相談に乗ってもらった者もいる。そのような関係性を持った者からの質問だ。一人一人の言葉には本当に心配している様子が伝わってくる。それは御岳自身もよく分かった。
ただ、その心情が分かる分、余計に御岳の口からは返事ができなかった。やはり伊達が代わって説明を続けた。
「みんなが御岳君のことを大変心配しているのはよく分かった。…私の口から言おう。実は御岳君はガンなんだ」