伊達はちょっと間を取り、話した。
「えーっ」
全員、絶句した。ガンという病名の響きには一種の絶望感がつきまとう。だからこの言葉を聞いた時点で、みんなの気持ちは一気に沈んだ。悲痛な雰囲気がその場を支配した。この時点では、先ほど伊達と話して心が落ち着く方向に向いている御岳の表情のほうが良い。全体を見ると、だれが病人か分からない雰囲気になっている。
「みんながびっくりするのは無理はない。しかし、御岳君の場合、ガンといっても悪性度は低く、しかもごく初期の段階だそうだ。だから医者も直接、御岳君に告知した。君たちも癒しを学んでいるから、その意味は分かるな」
伊達は医者が本人の告知した意味を問いかけた。どこまで理解したか分からないが、一同、表情が少し和らいだ。
「…それで、これからどうするんですか?」
高山が尋ねた。御岳と会って一番日が浅いが、それだけに御岳の存在は大きく、今後のことが気になった。
「まず郷里に帰り、入院する。そこできちんと治療を受けることになっている。当然、無事退院するつもりでの入院だ。そして、その後はまたみんなと一緒に内弟子として修業したいとさっき聞いた。病気との戦い、しかもガンとの戦いになるが、御岳君もみんなの先輩として引っ張ってきた人だ。決して病気に遅れを取ることはないと信じている」
伊達が言った。それは御岳に対してのメッセージも含まれている。御岳自身もそのことは十分分かった。この言葉で、ガンに立ち向かう意識が明確になり、表情にも変化が生じた。
「みんな、心配してくれてありがとう。今、先生がおっしゃったように、俺はこれからガンと戦う。幸い、十分治る見込みがあるので、それを信じてがんばる。最初に聞いた時は正直、自殺という言葉も頭の中に浮かんだ。でも、内弟子として培ってきた根性のようなものが俺を立ち直らせた。だから、この病気を必ず治して、またみんなと一緒に稽古したいと思う。2~3日準備して田舎に帰るけど、みんな、後はしっかりがんばってください」
御岳は背筋を正し、みんなの目を見てしっかりと話した。そこにはこれまでの落ち込んだ様子は微塵もなく、内弟子の長男格として立派な態度だった。
「分かりました。御岳さん、がんばってください」
「また、一緒に稽古したいので、絶対帰ってください」
「お見舞いに行きます」
口々に御岳を励ました。御岳はその心をしっかり受け止め、改めてガンと戦う勇気を得た。