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ガン 14

 最初の見舞いは伊達だった。御岳から電話があって、2日後に訪れた。その日は比較的動きやすい日で、早朝の内弟子稽古を終えた後、M市に向かった。仕事に関しては、内弟子に代講を頼んでいるので心配はなかった。

 M市は新幹線で、東京から2時間半から3時間ほどかかる。早朝稽古を終え、そこから準備してもお昼前後には着く。面会は午後2時からということなので、そのくらいの時間に行くことは御岳に伝えてある。東京で内弟子に引き継ぎをきちんと済ませて向かっても、時間的には全く問題なかった。

 伊達にとってM市は初めての訪問だ。街の様子がよく分からない。着いたのが午後1時ころだったので食事を済ませ、その後タクシーで御岳の入院先に向かった。駅からは車で10分程度のところだった。

 病院に着いた伊達は、受付で御岳の病室を尋ねた。

 だが、見舞いに来る大体の日時を伝えていたので、御岳は受付付近で待っていた。御岳の両親も伊達が来るということで、一緒に待っていた。

「先生、わざわざ遠いところをお出でいただき、ありがとうございました」

 御岳が伊達を見つけ、挨拶をした。続いて両親も同様の挨拶をした。

「お忙しいところを、信平のためにありがとうございます」

 父親が言った。

「いいえ、内弟子というのは子供も同然ですから…」

 伊達の言葉に両親は恐縮していた。

「ここでは何ですから、あちらのレストランのほうでお話を…」

 母親が場を変えることを提案した。4人はレストランへと移動した。その際、御岳の歩き方を見ていると弱々しい。

 外見的な第一印象は、病人らしくなった、という感じだ。身体はやせ細り、毛髪が抜けている。もっとも、その様子がなるべく分からないようにと、頭部にバンダナのようなものを巻いている。以前の様子を知っている分、伊達にはそれがさらに頭部の状態の痛々しさを強調しているように見えた。

 せっかく武術の稽古で培ってきた身体の中心軸もきちんと保たれていない。身体をしっかり支えるだけの体力もないのだろう。

 そういう状態を総合的に見る限り、外見的にはとても元気そうには見えない。

 だが、目つきは違っていた。2日前、伊達に電話をかけ、そこで話したことで退院後がはっきり意識できるようになったのだ。身体は確かに病人だが、心はすでに健康体だった。

 そのため、レストランでテーブルに着いた時の伊達の言葉は「元気そうじゃないか」だった。


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