1時間後、堀田と高山はロビーで待ち合わせた。堀田の表情はとても明るい。見舞いのためにM市に来た、ということを完全に忘れてしまっているような感じさえ受ける。
「どこに行きましょうか」
堀田が声を上ずらせながら言った。しかし、具体的な希望はない。一番行きたかった蕎麦屋さんには行ったので、とりあえずブラブラしようということになった。
一緒に行動するのは選挙の時以来だ。その時から堀田と高山は、2人で行動することに不自然さを感じていなかった。足の向くまま、適当に歩いていた。初めての街だから、目に入るもの全てが楽しい。本来ならば、武術を学ぶ者として、初めての地では危険な地域には行かないという配慮も必要なのだが、すっかりそういうことを忘れていた。
しばらくすると、堀田がゲームセンターを見つけた。堀田は内弟子の中では最年少で、まだ19歳だ。いくら他の同年代と違うところがあるといっても、幼いところもある。久々にゆっくりできる解放感からか、ちょっと寄っていこうという話になった。高山としてはあまり興味はなかったが、他のプランがあるわけではないので一緒に入っていった。
堀田は昔からゲーム好きだったらしく、一旦始めると夢中になった。実際、上手い。高山も今は興味がないとはいえ、堀田の年齢の頃はそれなりに経験した。だから余計に堀田の上手さが分かった。
「堀田君、上手いねぇ。ずいぶんやっていたんだ。今は内弟子修業でやれないだろうけど、なんか水を得た魚みたいだね」
高山が言った。
「それほどでもないですよ。もうそろそろこのゲームじゃなく、次に移りましょう」
堀田はそう言うと、別の機械のほうに移動した。堀田にとってはちょっと物足りなかったのだ。
機械を見ながら歩いていると、地元の少年グループと肩がぶつかった。5人の中で一番すぐにキレそうな少年だった。
「すみません」
堀田はすぐに謝った。普通ならそれで済むところだが、相手は問題のありそうな少年だ。高山は瞬間的に何かある、と直感した。
思った通り、少年グループはすぐに堀田に因縁をつけてきた。
「おい、ちょっ待てよ。ぶつかっておいて、何だ、お前」
堀田のゲームの機械選びに夢中だった様子が、面白くなかったのかもしれない。少年たちは堀田の周りを取り囲んだ。堀田はもう一度謝った。だが、少年たちは引き下がらない。それどころか、おとなしいと思ったのか、ますます調子に乗って堀田に暴言を浴びせてきた。
「それが謝る態度か」
「謝り方を教えてやろうか」
少年たちは口々に言った。中には堀田の肩を小突く者もいる。
最初は我慢していた堀田だったが、だんだん顔が戦闘モードになってきた。
高山はちょっと後ろにいたため、堀田の様子に気が付くのが遅れたが、すぐに中に入って騒ぎを止めようとした。
「堀田君、行こう」
高山は堀田に向かって言った。直後に少年たちに対しても高山からも謝った。
「すみません。よく言ってきかせますので…」
別に高山が誤る筋合いでもないが、頭を下げることで回避できるのならばという配慮だ。
しかし、これが逆効果だった。仲間が助けに来た、という感じに受け止められ、少年たちはますます激昂したのだ。