「お前、こいつの仲間か」
「構わねえ、一緒にやっちまおう」
少年たちは高山にも敵意をむき出しにした。
もうこうなっては止められない。大きな罵声が飛び交う。他のお客も集まってきた。店員が止めに入ろうとするが、その様子から腰が引けてしまっている。
たぶん、もう誰かが警察にも通報しているだろう。知らないところで警察沙汰になったら大変だ。ここは意地を張るのではなく、この場を素早く立ち去ろう。
高山は瞬間的にそう判断し、堀田の手を掴んで、ゲームセンターから走り出た。本格的な乱闘になっているわけではないので、店を壊したりはしていない。そういう意味ではここで逃げても問題はない。
だが、少年たちは追いかけてきた。
堀田は戦う気でいた。もし本当に喧嘩になった場合、堀田と高山であれば、問題なく勝てる人数だが、それでは内弟子に入門する時に誓った、空手を喧嘩に使わないという約束を破ってしまうことになる。高山は走りながら堀田を説得し、とにかく走って逃げた。
しかし、少年たちはしつこく追いかけてくる。
高山は街を歩いている時、交番があったことを思い出した。
堀田と高山は足を交番に向けた。ほどなく交番が見えた。外には警官が立っている。もうここまで来れば大丈夫とばかり、走るのを止めた。
追いかけてきた少年たちも、交番が目に入ると足を止め、引き返した。これまでも何度か地元で問題を起こしているグループだったので、警察は苦手だったのだ。
その様子を確認して、2人はホテルに向かった。
「高山さん、なぜあの時、やらなかったんですか? あんな奴ら、別に逃げなくても俺達なら問題なく勝てたじゃないですか」
帰る途中で堀田は言った。逃げたことを悔しく思っているのだ。
「喧嘩するのは簡単だけど、俺たちは先生から喧嘩を止められているだろう。もし本気でやって、大怪我させたら後が大変だ。それだけのことを稽古でやってるだろう。先生が何時も言っている『忍』の心だよ」
高山が戦わなかった理由を説明した。伊達の話を出されたなら、納得しないわけにはいかない。
「…分かりました。でも、もしやっていたら、何分くらいでKOしてたでしょうね」
堀田が言った。もうこの時には落ち着いているのか、顔の険しさは消えていた。
「もうそんなことを考えちゃだめだ。忘れよう」
大人として、高山は堀田に言った。
2人はホテルに戻り、ゆっくり風呂に入り、身体を休めた。