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解決 5

 御岳が戻って1ヶ月ほど過ぎた。歓迎会の次の日から、これまで通り内弟子稽古、一般稽古にはすべて参加した。もちろん、体力が許す範囲内でのことだが、御岳としては望んでいたことなので、多少辛いところがあってもできる限り頑張っていた。

 実際、癒しの稽古は今まで通りできるようになった。受ける側と施術する側とに分かれるため、ある意味、身体を休めながら学ぶことになるし、施術する側もその点を理解して上で施術する。だから、1ヶ月も経った頃には、病気上がりには見えなくなっていた。もっとも、連続して施術するという現場でどれくらい動けるかはまだ未知数だが、少なくても学びの現場ではこれまでと同じくらいの回復ぶりだった。

 だが、空手の稽古では一般部でもついていけない。白帯よりも体力がない。最初の基本ですぐに息が上がってしまうのだ。御岳自身も悔しい思いをしていることが手に取るように分かる。伊達はその様子を見て、懸念していたことが現実化していると考えた。

 伊達は武術の一般稽古の後、御岳を事務所に呼んだ。

「御岳君。ちょっと事務所に来てくれ」

 他の内弟子たちは呼ばれない。しかし、御岳が戻ってくる話があった時に伊達から御岳の今後についての可能性を聞いていたため、その時のことが頭をよぎった。特に龍田は不安な心が表情にも表れた。

「はい。分かりました」

 何で呼ばれたのかは分からないが、御岳は返事し、伊達と事務所に行った。事務所に入ると、テーブルをはさんで向かい合って腰掛けた。ソファーに深く腰掛ける伊達に対して、御岳は浅く掛け、背筋もしっかり伸ばしている。緊張している様子が手に取るように分かる。その御岳に伊達は言った。

「そんなに緊張しなくていいよ。楽にして」

「はい。すみません」

 緊張するなと言われても、何の話か分からないのでは落ち着かない。御岳の表情は固くなっている。

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