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解決 8

 伊達にしても、御岳の今後については、身体の状況を見た上でという条件を前提にしていたため、しばらくは何も言わず、静かに見守っていた。

 同時に、それが御岳を追いつめるようなことになってはいけない、という思いもあった。

 内弟子の中では御岳と伊達の付き合いは一番長い。その分、他の内弟子には分からない微妙な呼吸の一致がある。今回、伊達から切り出した話もそういうところから来たものだが、そのことが逆に御岳としては今の心情についての話をするのに好都合だった。

「先生。実は自分も最近、このまま内弟子として残っていてもいいだろうか、ということを考えていたんです。東京に戻ってきた時は、また今まで通り内弟子としてやっていこう、やっていけるものと考えていました。でも、現実の問題になると、整体はともかく、空手の稽古ができない自分を責めるところが出てきました。ただ、誤解しないでください。決して内弟子が嫌になったとかいうのではなく、現在置かれている状況であったり、もともと内弟子志願した理由を改めて考えた上でのことです」

 ここで御岳は一旦話を止めた。頭の中で伊達に話す内容を整理していたのだ。

 何を話すか定まったところで、再び御岳は口を開いた。

「その一つは、さっきおっしゃられた内弟子の条件である空手の稽古が十分にできないことです。もう一つは、入門の時にお話したように、自分は先生の整体術に魅かれて入門をお願いしました。幸い、整体師としての技術を認めていただいたことで、ある意味、目的を果たしたと言えます。このところ、自分の闘病の経験から、そろそろ独り立ちして整体院を開き、癒しを求める人の役に立ちたいと思うようになっていました。ただ、技術的にはどうかという心配もありましたが、退院後の勉強の中で、技量的な部分でのお誉めをいただき、自信がつきました」

 御岳はここしばらく感じていたこと、考えていたことをすべて話した。胸に引っかかっていたものが、全部取れたような顔になっていた。内弟子を卒業する、という話であったにも関わらず、そこに不安感は見えない。伊達はここでも御岳の精神的な成長を感じていた。

 空手の稽古はできなくても、心は立派な武道家だ。武道の行き着く先を哲学と考えている伊達にとって、御岳の心の成長は、これまでの内弟子修行とガン克服の賜物と考えた。内弟子を中退するのではなく、立派に卒業ということで送り出そうと伊達は思った。

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