御岳の心の内を聞いた伊達は、静かに言った。
「…御岳君。君の考えは分かった。こういう話はなかなかしにくいものだが、物事には必ず区切りがある。それが御岳君の場合は今、ということなんだろう。きちんと意識できた形で卒業してもらう運びになり、私も嬉しい。内弟子修行は普通の学びではないだけに、卒業は何年という形で行なうものではないが、御岳君の場合、心の成長と整体術の技術の習得が条件となった。もちろん、武道にしてもここで3年以上、普通よりも厳しい状況でやってきたんだ。その部分でもしっかり自信を持って、今後に活かしてほしい」
伊達の意識の中にも、内弟子第1号として御岳との思い出は言葉に尽くせないものがある。その御岳が卒業するということは、成長の結果ということが分かっていても寂しいものだ。だが、伊達自身の言葉にもあるように、物事の区切りとしての意識も必要だ。ある意味、内弟子の中から卒業生が出たということは、伊達にとっても師としてのステージが上がったことになる。きっとそれは、他の内弟子たちにも良い形となって影響していくであろうことは、この2人の間に流れる空気からも読み取れる。
御岳は伊達の言葉を聞き、改めて言った。
「ありがとうございます。そう言っていただけると、自分も教えていただいた甲斐があります。結果としてガンはいろいろな意味で自分のターニングポイントになり、次のステージが見えました。卒業させていただきますが、今後ともよろしくご指導ください」
「もちろんだよ。ここで一緒にやってきた事実は消えないし、今度はこれまでと違った関係の中でやっていくことになる。師弟関係というのは、何も一緒にいることだけが全てではない。形が変わっても続いていくんだよ。まだ整体術にしても伝えていないことがあるので、その点はもう少し勉強するように。その上で、きちんとした形で卒業、ということにしよう」
人は別れの時にどのような振舞をするか、それは重要なことだ。そういう意味では御岳は大人としての対応をした。伊達は卒業してもきちんとやっていけるであろうことを確信した。