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解決 20

 だが、空手は手足の使い分けが一つの技術だ。KOのダメージが抜けた時、今度はグローブについてはそのままで、足技も使うということで行なった。成瀬はその前に勝っているため、余裕でそのルールを飲んだのだ。

 しかし、それがボクシングと空手の違いをはっきりさせることになった。言い方を変えると、手技と足技の違いが出たのだ。

 先ほどの戦いで、いつもと同じような構えでやっていては、良いように間合いを切られ、どんどん入ってこられる。空手とは異なる攻防のリズムに、どうしても押されてしまう。そのため、ボクシングでは通常は使わない半身の低い姿勢での構えを取った。左足を前にした四股立ちに近い立ち方で、上体を半身にして少々前掲させ、攻撃ヶ所を少なくした。軽やかなステップは踏めないが、逆にこういう状態に慣れていない成瀬は困惑した。攻め方が掴めないのだ。高山を誘うように動くが、逆に高山はどっしり構えて動かない。自分の間合いに成瀬が入ってくるのを待っている感じだ。

 その状態に業を煮やした成瀬が左ジャブを出した。この時はフェイントではなく、当てるつもりでいたので、これまでより踏み込む間合いが深かった。高山はそれを待っていた。左の中段足刀蹴りが成瀬の腹部をカウンターでとらえたのだ。いわゆる待ち蹴りだ。その瞬間、成瀬の身体は「く」の字に折れ曲がった。普通であればそれでKOしたといったタイミングだったが、高山はもう一つ、技を繰り出した。右上段後ろ回し蹴りだ。高山のかかとがきれいな曲線を描き、成瀬の後頭部を直撃した。成瀬はそのまま前方にダウンした。文句なしの高山の勝ちだった。

 以来2人は、さらに友情を深め、時々研究と称してボクシング対空手の戦いをやっていたのだ。

 だから、今回の大木との戦いも、高山にとっては緊張するものではなかった。だが、今度の相手は元プロだ。しかも黒田が連れてきたということは、ボクシングであっても喧嘩などの経験から、蹴りに対する防御も研究済みかもしれない、という意識があった。そのため、うかつなことはできないと考え、大木の様子を見ているのだ。

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