ヒューガが数日学校を休んでいる間に、また新しい転入組が来ていたらしい。
「……見慣れない制服の奴ら増えたな」
「ああ。今週だけで50人以上入ったらしいからね。全校合計で」
「そりゃまた随分だなぁ……」
「去年
「それまではこの高校が仮宿ってわけか」
「だから多分、あの子たちは僕らの制服には替えないんじゃないかな。そのまま新しい高校にスライドすると思う」
カタカタとノートパソコンを叩きながら教えてくれるクライス。
クライスは学校でも動画編集をするようになっている。
彼個人の校内ファンも徐々に増え、ヒューガの見ている前でも自称ファンの女子に幾度もツーショットを求められていた。
「……モテてるなぁお前」
「あはは、マスコット需要だよ。ウチのパーティ、カッコいいとこはジュリちゃんかラダン君がだいたい持っていくからね……僕は撮影係みたいなもんだから動画にあんまり映らないし」
「その代わり動画に声は一番入るだろ。それにジェフリーもリステルもアホだから、いざって時はお前に頼りっぱなしだし。お前が自分で思ってるよりはいいカッコできてるぞ」
ヒューガがフォローしてやると、アホ呼ばわりされたジェフリーとリステルがタイミングよく後ろから身を乗り出して、ヒューガの後ろ頭と肩をガッと掴んでくる。
「おいおいおいィ? 確かにクライスには世話になっちゃいるが、お前さんにアホ呼ばわりされる謂れはねェぞ?」
「先週の小テスト、何点だったのかなぁヒューガ・ブライトン君? あたし88点だったけど」
「あ、あー」
今回のようにヘルブレイズ関係で休むことを差し引いても、ヒューガの成績は良くも悪くもない。テストは59点だった。
「っていうかお前そんなに成績いいのかよリステル。クライスならわかるけど」
「成績落ちたらハンターやめろってパパに言われてるからね。高めキープよ。ふふん」
「俺ぁそこまでじゃねえが、ヒューガよりはマシだったはずだぜぇ。おうおう訂正しろや?」
「て、テストの成績の話じゃなく動画内でいつもクライスに判断投げまくってる問題の話だからな?」
「バーッキャロウ、俺たちゃアホだから投げてんじゃねえ、意思統一ってヤツだろ」
「報連相ともいうね。パーティに勝手する奴が何人もいたらしっちゃかめっちゃかでしょ、判断するのはジュリとクライスだけで充分なのよ」
「いやいや、僕が司令塔やるのはなんかおかしくないかなあ!?」
「だってスポンサーじゃん?」
「ありがてぇありがてぇ」
「そりゃみんなの銃とかは揃えたけどさ! ヘボ装備パーティで出ていきなり死ぬのは嫌だっただけだからね!?」
ワイワイと騒ぐ三人。
判断丸投げと言うと悪くも聞こえるが、それぞれ我を張って連携できないのに比べればよほどいい。
改めて、ジュリエットはいいメンバーに恵まれているな、と安心する。
(グループとしていい感じ過ぎて、入るスキがないがのう)
(……まぁ、どうせ俺が追加メンバーとして入るわけにはいかないわけだし……)
(入りたがったら、ルティはそれはそれで便宜計ると思うぞ)
(どうかなぁ……ヘルブレイズに乗せるために育ててる、みたいなとこないか?)
(お前はアイツを信用しなさすぎじゃ。あれやるなこれやるなと言われて育ったわけでもないじゃろ)
リューガに言われて微妙な顔になるヒューガ。記憶は共有しているので、どう育ったかは事実でしかない。
(パーティに入っていかんのはお前のカッコつけの結果に過ぎんぞ。人のせいにするでない)
(そうは言うけどな……ヘルブレイズ作り始めたのは俺らが物心つく前だぞ。それ横目に無視してハンターできるかよ)
(……それはまあ、そうじゃがな)
そしてリューガの方も、ヒューガが行かない理由をある程度は理解できるので強くは押してこない。
ただヒューガに意気地がないだけなら、もっと強要するだろう。
性格が違うとはいえ、完全に個人の事情を共有できてしまうと、どんな引っかかりも切って捨てることはできなくなるのだ。
結果として、今日もヒューガはチーム・ジュリエットの近くで曖昧に笑って、ジュリエットが現れたら「ハンターやろうよ」のコールを適当にあしらって。
◇◇◇
そんないつものやり取りを終えて学校を出ようとすると、門の近くで知らない少女に真正面からぶつかりそうになった。
ヒューガが散漫に歩いていたわけではない。相手が真正面にあえて立ちはだかったのだ。
ジュリエットやリステルが着ているのとは違う女子制服。
どうやら「転入組」のようだった。
「……何だ? 通してくれ。帰りたいんだが」
「あなたがヒューガ・ブライトン?」
「違うぞ。ヒューガはとっくに帰ったはずだ」
真顔でヒューガは嘘を言ってすり抜けようとする。
が、少女はそれを体を張って止める。
「嘘。聞いてた恰好した人、あなたしかいない」
「……誰に何聞いたのか知らないけど、そんなに貴重な恰好はしてるつもりはないぞ」
「ジュリエット・ティリオンに聞いた。身長体重、肌に髪色、瞳の色、それにタイの学年色。何よりダルそうな猫背と視力悪そうな眼つき」
「俺そこまで言われるほど猫背か!? 眼つきそんな悪いか!?」
自分より背の小さいジュリエットやクライス、それに何よりルティの相手をすることが多いため、必然的にやや背を丸める感じで話してしまうことが多いのがヒューガの猫背の原因だ。
しかし研究室を一歩出れば、ヒューガより大柄な軍人はいくらでも歩いている。高校だって多数の人種が入り乱れる中では、決してヒューガは大柄な方とはいえない。できるだけ胸を張っているつもりだったのだが。
「やっぱり」
「な、何がやっぱりなんだよ。俺はヒューガじゃないぞ」
往生際悪く言い逃れようとしたヒューガだが、数瞬考えて馬鹿らしくなって、やめる。
「……で、なんだよ。俺が仮にヒューガだったらなんなんだ」
「あなた、軍にいるんでしょ?」
「雑に言えば、そうだが」
しぶしぶ認める。とぼける方が面倒だ。
少女はやけに強い瞳で、ヒューガの胸倉を掴むようにしたまま、訴える。
「教えて! どうしたら
「……はぁ?」
ヒューガは何言ってんだこいつ、とばかりに片目を細めた。
「どうしたって乗れない。あれはそこらのガキが乗るものじゃない」
当然ながら例外の自分のことは棚に上げる。
「でも、乗らなきゃいけないの!」
少女はヒューガに顔を近づけて、叫ぶ。
「あれが動かなかったから、私たちの街は滅んだ……そんなの、もうたくさん!!」