「いよ、ご両人! 相変わらず見せつけてくれんじゃねぇか。じゃあ俺はこれで!」
「おう、今度は捕まるなよー?」
「それは天を運に任せるしかねーけどな!」
だめだこいつ。
まるで反省の色が見えない。
まあ木村らしくていいけどな。
「すぐに行っちゃったね?」
「木村にも木村のやりたいことがあるからな。あと多分俺たちに気を使ったんだ」
「あの木村っちが?」
美玲さんはありえないって顔で驚く。
俺も自分で言っててねーなって思ったけど。
「おし、じゃあダメ元で入ってみっか」
「いいのあるといいねー」
「一応フード被って耳隠しといてね」
「あ、そっか」
国そのものがエルフを亜人として忌避してる場合、こういう店でも厄介払いされる可能性もあるからな。
「すいませーん」
「あいよ! 惚れ薬から媚薬までなんでも揃ってるよ!」
ものすごい怪しい老婆が受付で声をかけてくる。
なんて胡散臭い店なんだ。
美玲さんは店内をキラキラした視線で見回した。
あちこちには怪しい薬品類。
絶対詐欺の類だろう。
一目見てわかった。
俺は詳しいんだ。
「ね、あっくん見て! すんごいグニョグニョしてる!」
「なんに使うんだ、これ」
それは瓶の内側から押し上げるスライム状の液体。
老婆はスケベな顔をしながら説明をしに近寄ってくる。
「ヒッヒッヒ! お客さん、お目が高いねぇ。こいつはマンティコアの睾丸とサキュバスの愛液を混合させた媚薬さね。男に使ったらビンビンに、女に使えばそれはもうすごいことになっちまうよ? ケッヒッヒッヒ」
それが本当なら、マンティコアもサキュバスも日常的に狩られてるってこった。
なんて物騒な世界なんだ!
そもそもこんな怪しい薬買う奴なんているのかぁ?
「買おうよ、あっくん!」
ここに居ましたね。
まぁ、彼女が乗り気なら俺も吝かではない。
つーか、最初から俺に選択権なんてないけどな。
「いくらだ?」
「ケッヒッヒッヒ、金貨が30枚だぁよ!」
高けー。
絶対足元見てるだろ。
「何を言ってるんだい、まず素材を集める段階で金貨だよ? それからそれから……」
説明を続けてる途中で目の前で老婆が消えた。
やはりぼったくりの類だったか。
「あれー? おばあさんどこ消えちゃったんだろう?」
「多分俺のカウンター転移に引っかかったんだろ」
「カウンター転移?」
「転移スキルのレベルが100になって増えた能力だな」
「でもカウンターって事はオートで反撃しちゃう感じなんだ?」
「うん。俺を騙そうと近づいたら感知してアトランザに転移されちゃう感じ」
「え、アトランザって?」
そう、この世界よりステータス的な意味で厳しい場所だよ。
「ちなみに最初はストリーム行きだった」
「うわっそれはひどい」
「あんまりにも転移が頻繁に発動するからアトランザに変えたんだ。ワンチャン、ストリームよりはマシじゃん?」
「マシと思うかどうかはその人によるけどね?」
美玲さんに突っ込まれた。
まあ頭を冷やす的な意味でね?
「どうしよっか?」
「詐欺を働こうとしてた老婆だぞ? 体に害があったら怖いからやめとこうぜ?」
「そっかー、残念」
「もし買うなら吉田さん連れてからかなー?」
「きゃー、あっくんのえっちー」
「そういう意味じゃない!」
別にベッドに吉田さんを誘おうとかそういう事は考えてないぞ?
ただどれくらい解呪の餌食になるか興味があるだけだ。
でも美玲さんてばそっちに受け取っちゃうのね?
まぁ、こんな店に来てる時点でそっち目的だけどな。
この場合おかしいのは俺か。
店を出ると、太陽が真上に上がっていた。
特に動き回ってないけど小腹は空いたな。
「どっか小腹満たしに行く?」
「行く行く!」
二人で歩き、なんか昼頃にしてはやたら人通りの少ない街並みを歩く。
もしかしなくても俺のカウンター転移が悪さしてるんじゃないだろうな?
ピンポーン
──────────────────────
❗️ <カウンター転移のLVが上昇しました>
二個まで設定をすることが可能になりました。
──────────────────────
案の定だった。
LV上がんのはえ〜んだよ。
それ以前に街の半分以上が破落戸とかどうなってるんだよこの街。
それはともかく、罪のレベルが低い奴を牢屋送りにしとこう。
犯罪履歴がある奴を→アトランザ
初犯の奴を→王城内牢屋
にした。
それでもアトランザ行きの方のカウントがぐるぐる回る不思議。
あー、そうですか。初犯のやつは居ないと?
俺の考えが甘かったわけだ。
犯罪の一つ二つこなしてようやく一人前とかどんな街だよ。
これはエイジじゃなくたってカモられるわ。
悪質極まりなさすぎる。
半分以上の住民をアトランザ送りにしつつ、俺達は冒険者ギルドに併設されてる酒場で適当に摘める物を頼んだ。
「ようやく一息つけるねー」
「謎の失踪事件でギルドも大賑わいだからな」
「一体誰のせいかなぁ?」
「俺は預かり知らんなぁ。おばちゃん、エール追加で」
「あっくん、本当にエール好きだよねー? あたしこれ苦手なんだ」
「要らないなら俺がもらうぞ?」
「じゃあ、任せようかな?」
「おう、美玲さんはお肉担当かな?」
「はいはい! あたし食べるの大好きー!」
その割には実らないとは口に出してはいけないルール。
彼女はいったいどこに流れていくのか不思議な胃袋で目の前の食事を平らげた。
秒だ。俺がジョッキを傾けてからテーブルに下ろすまでの間、目の前にあったはずの食事が消えている。
そして彼女の体の変異が一切見られないのだ。
普通お腹いっぱい食べればお腹が膨らんだりする物だが、美玲さんはそれが一切ない。
まるで肉体の内側に溜め込んで何かに変換されてるかのように。
まさか美玲さんの充填とは……
いや、たらればで物事を考えるのはやめよう。
本人が気にしていないんだ。
俺がそこを追求する意味ないよな?
それ以前に俺のスキルの方がツッコミどころ満載だしな。
ヨシッ、この事は忘れよう。そう決めた!