260. 姫は『意識』されてるようです
オレは今、事務所の控え室でバレンタインてぇてぇ告白ボイスの収録の打ち合わせをしている。日咲さんに変なちょっかいを出されたが、打ち合わせをちゃんとしないとな。
「そう言えば日咲さん。文句言わないんだな?」
「文句?なんで?」
「いや……一応オレが無理矢理配信に呼んだからさ」
「え?そんなこと気にするなんて衣音と同じじゃんw」
「悪かったですねw」
「別に嫌なら行かないし、前にも言ったけどあたしVtuberの仕事に誇りを持ってるから。今の颯太と一緒でさ?」
確かに前に日咲さんが言ってたな。そう考えると今は同じ目的に進んでいるんだな。
そんなことを話していると打ち合わせをするため、スタッフが控え室に入ってくる。そして収録の流れなどを一通り説明され、肝心の台本を貰い目を通す。まぁ流れでやるとはいえ、『てぇてぇ』である以上恥ずかしいし、緊張するよな。
「まずは台本を確認してください」
事務所のスタッフにそう促されながら、オレは渡された台本を読み進める。
バレンタインてぇてぇ告白ボイス……しかし……この台本……これを本当に配信するのか?こんなセリフ言わせるのか?あまりの恥ずかしさに顔を赤くしながら固まってしまうオレだったが、横に座っている日咲さんは平然とした顔で読み進めている。
「ん?どした?」
「いや……これ恥ずかしくないか?」
「あー……確かに颯太と紫織さんじゃ普通に男女だから告白みたいだもんね!」
そう日咲さんが言うと立花さんは、少し顔を赤くしながら話し出す。
「ちょっと……そういうの言わないでくれない?意識しないようにしてるんだから」
「え?紫織さん意識しちゃうの?颯太も男として見られてるのかw」
「だから!そういうんじゃないから!」
……そういうやり取りはオレがいない時にしてほしいが。なんかオレまで意識するぞ?
いや……彩芽ちゃん違うよ?変な意味じゃないからね?2人がそんな話をしているとスタッフは話を進め始める。
「とりあえず『あるアロ』から流れを確認しますか」
【あるアロの台本】
シチュエーション:2月13日の夜、事務所にて……
収録を終え、扉から控え室に戻るあると。そこにはスマホを弄っているポアロがいる。
ポアロ「あ。お疲れあると」
あると「あれ?まだ帰ってなかったんですか?」
ポアロ「うん。レベル上げしてたからさ」
あると「家でやればいいじゃんw」
ポアロ「どこでやろうとポアロの勝手だろ」
あると「そうですけど、こんな遅い時間なのにわざわざご苦労なことで」
しばらく沈黙が続く
ポアロ「あ。さて……帰ろうかな」
あると「お疲れ様でした。あるとも帰ろうかな……」
そして鞄から何かを取り出すポアロ。
ポアロ「あると」
あると「え?」
ポアロ「バレンタイン。あるとにあげるよ」
あるとが振り向き時計を確認すると0時を回っていた。
あると「バレンタイン……わざわざ待ってたんですか?まったくポアロ先輩は意外と乙女なんですね~」
ポアロ「黙れ。あ、あとそれ一応手作りだからな?」
あると「手作り!?」
ポアロ「なんだよ!ポアロだって作れるから。その……いつもありがと。これからも配信もプライベートもよろしく。ほら!」
ポアロがチョコを投げ渡し、そのまま扉の方に歩いていく。そのチョコレートを見つめ小さな声で呟くあると。
あると「なんだよ……あると……恥ずかしくて用意できなかったのに……ポアロ先輩!」
ポアロ「ん?」
あると「……今からポアロ先輩の家行ってもいいですか?朝までゲームやりましょう!」
ポアロ「えぇ?嫌だよw」
あると「いいじゃないですか!どうせ暇なんだし!コンビニ寄ってから、そのままポアロ先輩の家に突撃しますから!」
ポアロ「コンビニで何買うんだよ?」
あると「牛乳とか……あ。とっとにかく!行きますよ!」
ポアロ「なんでお前が決めるんだよw……まったく」
あると「ポアロ先輩。せっかくなら明日オフコラボしましょうよ?」
ポアロ「オフコラボ?いいけど、めっちゃプロレスかましてやるからなw」
あると「それはこっちのセリフですw」
そのまま仲良く事務所をあとにする2人。そしてフェードアウト。
「わぁ……え?凄いこれ!七海と衣音さ、これ……いいの?想像しちゃうんだけど!『あるアロ』の仲の良さの中に『てぇてぇ』が詰め込まれてるじゃない!」
「なんで紫織さんがテンション上がってんのw」
「私は『好き』とか直接的なセリフがなかったので、ホッとしましたねw」
「マジ?あたしはこっちのほうが恥ずかしいけど、これもうお互いに好きじゃんwあるとだけがポアロを好きで良くないw」
「なんでですかwそれじゃ『てぇてぇ』にならないじゃんw」
これが『あるアロ』の台本か……なんか仲良し姉妹みたいでいいな。実際の日咲さんと衣音ちゃんみたいな関係だし。