261. 姫は『聞いてない』そうです
「じゃあ次は『ましリリィ』の台本を確認します」
スタッフにそう言われ、再度台本を確認することにする。これを今から収録するのかと思うと、緊張するし憂鬱ではある。ただ、仕事なので仕方ないと割りきるしかない。
オレは一度深く深呼吸をして気持ちを整える。そして立花さんの方を見ると目が合うのだが……顔が真っ赤だ。多分オレと同じで恥ずかしいんだろうな。そんな様子を見て日咲さんはいつものようにからかってくる。
「ちょっと。ましリリィ始めるなw」
「どこがだよ!」
「七海!変なこと言わないでよ!」
「いやその反応がさ?中学生じゃんwまぁいいや、台本確認しよ?」
【ましリリィの台本】
シチュエーション:オフコラボ翌日のバレンタイン当日の朝にて
初めての『ましリリィ』コラボ。昨日はグランメゾン・リリィの配信があった。オフコラボの翌日リリィが目を覚ますとタイミング良くましろも目を覚ます。
リリィ「おはよ」
ましろ「おはようリリィさん」
リリィ「昨日はありがと」
ましろ「いえいえ。こちらこそありがとうございました」
リリィ「あ。そうだ」
リリィは起き上がり、昨日ましろが寝たあとこっそり作っていたチョコレートを渡す。
リリィ「これ、バレンタイン」
ましろ「え?ましろにくれるの?」
リリィ「嫌なの?一応、昨日余った材料で作ったやつだから大したものじゃないわよ」
ましろ「でも手作りだね?リリィさんの愛がこもってるんだ?」
リリィ「また変な風に言って!ならあげないわよ!」
ましろ「ごめんごめん。ありがとうリリィさん」
リリィ「ったく。朝御飯作るわね」
そう言って、寝室を出てリビングに行くリリィ。するとリビングのテーブルには包まれたチョコレートが置いてある。
リリィ「え?」
ましろ「ハッピーバレンタイン。リリィさん」
後ろから声をかけられ、リリィは微笑む。そして表情を戻して振り返る。そう、ましろもリリィが寝ている時にこっそりと準備しておいたのだ。
リリィ「……あら?あなたのは手作りじゃないのね?私への愛が足りないんじゃない?」
ましろ「でも、姫のましろがわざわざリリィさんのためだけに用意してるからね?そこは評価してほしいけどね?」
リリィ「それは……そうねw」
ましろ「でしょ?w」
そしてお互いに笑い合う。
リリィ「まぁ……ありがたく受けとっておくわよ」
ましろ「そんなこと言って嬉しいくせにw」
リリィ「うるさいわね。それはあなたじゃないの?」
ましろ「ましろは嬉しいよ?」
リリィ「え?」
ましろ「だって、こうしてわざわざ手作りのものくれるんだよ?嬉しいに決まってるじゃん?これはもうましろのこと好きすぎだねw」
リリィ「……そんなんじゃないわよ!あなただってサプライズみたいに用意してたじゃない!」
ましろ「いや、ましろのは買ってきたやつだからw手作りには勝てないよw」
リリィ「さっき評価しろっ言ってたでしょうにw」
そんな朝の会話をしながら、2人はバレンタインを堪能していく。お互い口には出さないが心の中で思い合っている。そしてフェードアウト。
「なんかお泊まりしてるじゃんw事後?w」
「設定だろ!実際のお泊まりじゃないから!それに事後ってなんだよ!」
「そうよ変なこと言うんじゃないわよ七海!」
「そんな2人してムキになって『てぇてぇ』しないでよ、ましリリィw」
「でも、なんか感動しちゃったなぁ。本当に『ましリリィ』のエモい関係性がすごく出てますし、リスナーさんも嬉しいと思いますけど、後輩の私たちもなんか……嬉しいです」
そう笑顔で言う衣音ちゃん。そんなこと言われたら何も言えないんだが……
「さて、次は『ましポア』の台本確認にしましょうか」
はい?スタッフの言葉に少し疑問が浮かぶ。打ち合わせでは『あるアロ』と『ましリリィ』だけって話じゃなかったか? すると立花さんが口を開く。
「あるんですね。ここに台本がないから、通らなかったのかと思ったw」
「どういうことですか……立花さん?聞いてないんですが?」
「ちょっと紫織さん!やったなw」
「いや、颯太と七海はやりたいかなと思ってwいいじゃない?Vtuberの仕事に誇りを持ってるんでしょ?リスナーは喜ぶわよね~?同期として嬉しいわw」
「裏でもエンターテイナーですねw」
「いや……そういうのは配信でやってくださいよ……」
「あとで覚えとけよ紫織さんw」
こうしてなぜか『ましポア』のパターンも収録することになってしまった。