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262. 姫は『実感』するそうです

262. 姫は『実感』するそうです




 なぜか『ましポア』のパターンを収録することになってしまったオレ。スタッフが台本を持ってくる。


「あら?七海、顔赤くない?」


「え。そっそんなわけないじゃん!あたしは平気だから!」


「必死ですね七海さんw」


「黙れ。衣音」


【ましポアの台本】

 シチュエーション:案件の仕事帰り


 案件の仕事を終え2人は家に帰るため寒空の中歩いている。


 ましろ「ねぇポアロ探偵?」

 ポアロ「ん?なに姫?」

 ましろ「今日何の日だか知ってる?」

 ポアロ「え?バレンタインでしょ」

 ましろ「うん。ましろにチョコレートないのかな?」

 ポアロ「いや姫もポアロにないでしょw」

 ましろ「ふむ。それなら今からあげればくれるのかな?」


 そう言って、目の前に見えるチョコレート専門店を指差すましろ。


 ポアロ「えぇ……お互いにチョコレート選ぶの?恥ずかしいけどw」

 ましろ「いいじゃん。せっかくだからお互いに分からないように選ぼう!」

 ポアロ「面倒じゃない?まぁいいけど」

 ましろ「じゃあ決まりね!ほら行くよ!」

 ポアロ「ちょっと姫引っ張らないでって」


 そしてそのままチョコレート専門店に入っていき、お互いにチョコレートを選び合う。そしてお店を出て少し歩くとましろが口を開く。


 ましろ「はいこれ」

 ポアロ「じゃあポアロからはこれ」


 するとお互い選んだチョコレートはまったく同じ物だった。そして2人は笑い合う。


 ましろ「同じだねw」

 ポアロ「なんかベタだけどw」


 ましろ・ポアロ(やっぱり考えること同じだな……)


 ましろ「ねぇ知ってたポアロ探偵?このチョコレートね……残り2個だったんだよ?」

 ポアロ「うん。ポアロが最後の1個買ったからさ」

 ましろ「あんなに色々ある中から2個しかないチョコレートを選ぶって奇跡じゃない?」

 ポアロ「そうだね。奇跡だね」

 ましろ「こうやってポアロ探偵と一緒に居れるのも奇跡……だったりしてね?」

 ポアロ「……チョコレート1つで大袈裟だな姫は。でも、そうだったら嬉しいな」

 ましろ「……そっか。それなら良かった」


 お互い頬を赤らめ、少しの間沈黙が続く。そんな沈黙を先に破ったのはポアロ。


 ポアロ「……ねぇ姫?そんな奇跡に感謝してポアロにお菓子買って?」

 ましろ「それはいつもじゃんw奇跡関係ないよw」

 ポアロ「えぇ?ダメ?」

 ましろ「しょうがないなぁ。いいよ」

 ポアロ「ありがと姫!好き!」

 ましろ「はいはい。ましろも好きだよ」


 そんなことを話しながらまた笑い合う2人。そのまま、また歩きだす。そしてフェードアウト。


「ちょっとー!何その可愛いやりとり!好きって言っちゃってるし!颯太と七海、早く収録して!」


「この好きは違うじゃん!いやマジで恥ずかしいんだけど!なんで普通に恋愛してんの!?なんかさっきと違くない?」


 日咲さんや立花さんが騒ぎ出すが、正直オレもめちゃくちゃ恥ずかしい……しかも後半はベタな少女漫画みたいなやりとりだし。


 そんなこんなで収録に望むことにする。しかし……バレンタインてぇてぇ告白ボイスなので恥ずかしさのあまりスムーズにいくわけもなく、何度もNGをだしてしまったり、ディレクションを受けたりと収録には時間がかかったが何とか終えることができた。いや?オレだけじゃないからね?みんな恥ずかしがってたから。


 ちなみに、公式アニメーションの『すたライフ』で配信されたあとは、反響が大きいものとなり、視聴回数も伸びているそうだ。なんか事務所スタッフの中では、こう言うものを定期的にやったほうがいいという意見も上がっているらしいが、オレとしては勘弁してほしいよな。


 そして今日は2月14日。リアルでのバレンタインである。オレはいつものように朝配信を終えると部屋に彩芽ちゃんがやってくる。


「お疲れ様です……颯太さん……今、大丈夫ですか?」


「あ、うん。大丈夫だよ」


「良かった……あの……これどうぞ……バレンタインです」


 彩芽ちゃんは可愛くラッピングされたチョコレートを渡してくる。これ手作りなんだよな……しかもオレのために。初めての本命チョコレートとか最高だ。


「ありがとう彩芽ちゃん」


「いえ……どういたしまして……」


 そして少しの沈黙が流れる。彩芽ちゃんが何か言いたげな感じだったので、オレは話を聞こうとするがなかなか喋らない。すると……彩芽ちゃんはゆっくりと口を開く。


「あっあの……私も……欲しいです」


「え?欲しいって?」


「ましろん先輩から……バレンタイン……てぇてぇ告白ボイス……録音したいです」


「……なんて言えばいいの?」


「はっはっ……はっ……えっと……『かのんちゃん大好きだよ』っ的なやつ……録音させてくださいっ!」


 顔を真っ赤にしてそう言う彩芽ちゃん。いや、それはそれで恥ずかしいが……まぁでも……バレンタインだしな……というか、オレより『姫宮ましろ』のほうがいいのは少し複雑だが。


「彩芽ちゃんはオレより『姫宮ましろ』なの?」


「どっちもです。私だけの……特権ですから……颯太さん大好きです」


 そう言って可愛い笑顔をオレに向けながらオレに抱きついてくる彩芽ちゃん。そして彩芽ちゃんはオレの胸に顔を埋める。くそ……可愛いな……そんなことを改めて実感する『ましのんてぇてぇ』のバレンタインの朝だった。

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