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583. 姫は『派手に行く』そうです

583. 姫は『派手に行く』そうです




 そして11月。オレは今、リビングで桃姉さんと共に打ち合わせをしている。高坂さんを介さずに直接話すと言うことはとても重要なことなんだろう。


「『Vの軌跡』?」


「ええ。今では世の中の人がVtuberを知らない人がいないくらい認知度が上がっている。そこで、Vtuber事務所の『Vパレスプロダクション』、『Fmすたーらいぶ』、『Make world!』の3事務所の軌跡にちなんだネット番組配信があるのよ。私たちの『Fmすたーらいぶ』は11月3日の19時からの2時間の放送予定よ」


「は?いやいや……明後日じゃんか……なんでそんな急に……」


 オレがそういうと桃姉さんは少し顔を赤くしながら眉をひそめる。


「仕方ないでしょ……急に決まったんだから……」


「……そうなのか」


 ……どうせ忘れてたんだろうなこれ。たま~にこういう事があるよこの人。あまりにも急すぎて高坂さんに伝えられなかったんだろうな。こういうところがココアちゃんみたいなんだよな……ひなこ様か……まぁ桃姉さんも忙しいだろうし、文句は言わないけどさ。


「まぁいいや。内容は?」


「題名の通りよ。『Fmすたーらいぶ』がどうやってここまで来たか。基本的なことは社長が答えていくと思うから、あんたは聞かれたことを答える感じでいいわ。これが聞かれることだこら準備しておいて」


 そう言って、オレは配信内容のアンケートを渡される。『デビューした時のこと』『初配信のこと』『3Dモデルが来た時のこと』……なるほど。無難な質問だけのようだな。


「でも、なんで急に?」


「社長が『そろそろこういうのもやっていかないとね』って言って、しかも『あまりこういう事を話す機会ないし、出来ればライバー全員に観てほしいわ』ってノリノリなのよ」


 まぁ……あの社長らしいと言えばそうなのだが……確かに『Fmすたーらいぶ』も有名な事務所になっているからな。こういうところで世間がVtuberに興味を持てるような配信は大切だよな。


「あと颯太。これはあくまでエンターテイメントではなくて、対談のネット番組配信だから。そこのところ忘れないでね?」


「余計なこと言うなってことだろ?そのくらい分かってるよ」


「当日は姫宮ましろの他に夢花かなえちゃんも参加するけど、あなたと夢花かなえちゃんの事を知らない人も観るから。大変だと思うけどお願いね?」


 そして当日。オレは桃姉さんに言われた通り、事前のアンケートの内容を確認して配信に備える。いやぁ……事前に聞いていたとはいえ、やはり緊張するよな。今は18時45分。もう少しで配信が始まるんだが、どんな感じで始まるんだろうか? そう思っているとディスコードに通話がくる。画面を見ると『星影つむぎ』と表示されている。


 そう言えば、高坂さんは当日は社長と共に番組スタジオに同行してるんだったな。とりあえずそのまま通話を繋ぐことにする。


 《お疲れ様です姫様》 


「お疲れ様。どうしたの?もう少しで本番なんだけど」


 《あら?緊張していないのね。さすが『姫宮ましろ』ね?》


「社長?緊張してますけど……対談のネット番組配信とか初めてですから。どんな感じでやればいいか今でも少し迷ってますよ?」


 《……ならいつも通りの配信のあなたでいいんじゃないかしら?》


「いやいや。これは『Fmすたーらいぶ』を知らない人も観ますから……」


 オレがそういうと星乃社長はクスッと笑いながら話し始める。


 《知らない人も観る。それなら普段から応援している人も観るってことでしょ?それにこれは『Fmすたーらいぶ』を知ってもらえるいい機会じゃない?》


「いや……それはそうかもしれないですけど……」


 《私たちはあくまで『Vパレスプロダクション』の次に人気の事務所……なら挑戦者らしく派手に行きましょ?》


「星乃社長……」


 《まぁ……私は期待してるわよ?Fmすたーらいぶの『姫宮ましろ』にね?》


 そう言って通話が切れる。……『派手に行きましょ』か。そうだな。オレはオレらしく、『姫宮ましろ』らしくやればいいよな。それがFmすたーらいぶのライバーだからな。

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