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602. 姫は『贅沢』するようです

602. 姫は『贅沢』するようです




 そのあとも細かい内容を確認してミーティングは終わる。そのまま立花さんと高坂さんは仕事があるので、オレと日咲さんの2人で会議室の片付けをしている。このあとお昼食べたらまた打ち合わせだからな。


 それにしても、えるるちゃんか。別に正体を明かすことは今となっては仕方ないと割り切っている。それだけオレが『姫宮ましろ』と向き合って、それをみんなにも認めてもらいたいと思っているから。


 本当に一昨年の今頃なら考えられないよな。これも彩芽ちゃんのおかげではあるんだけど。そんなことを考えながら片付けをすすめる。


「颯太。お昼何食べる?」


「え?特に決めてないけど……」


「じゃあ一緒に食べない?」


「別にいいけど。日咲さんは帰らないのか?」


「は?あのさ、次の新企画の打ち合わせあたしも一緒だけど?w」


「あれ?そうだっけ?」


 オレが申し訳なさそうにしていると、日咲さんは『ほら論外だねw』と言っていた。だから論外は言い過ぎだぞ……


 そして会議室を片付け終え、日咲さんと共に事務所を出てお昼をどこで食べるか話しながら歩く。


「何食べるんだ?なんでもいいとか言わないよな?」


「言わないよ。というか、こういうのは男の颯太がエスコートするもんだけど?普段彩芽ちゃんと何食べてんの?」


「いや……外食とかあまりしないと言うか……」


「はぁ。だからダメなんだよなぁ颯太は!まぁ彩芽ちゃんがあまり外に出たがらないからいいけど。普通の女子には通用しないからね?あたしとか?これは恋人とか関係ないから。同僚のあたしに対してもやることだからね?」


 なぜ日咲さんが基準になるのかは分からないが、確かにオレは美味しいお店やお洒落なお店など全く知らないし、調べたこともない……日咲さんの言う通りではあるので何も言えない。


「颯太。鰻食べれる?近くに美味しい鰻重が食べれるお店あるんだよね。そこでいい?」


「鰻?たっ高くないか?しかも贅沢というか……」


「高いよwまったく高級車買えるくらいの給料もらってんのに何言ってんの。たまには贅沢したっていいじゃん。颯太って何にお金使ってんのw」


「いや特に……」


「結構前に桃さん言ってたよ?もう自分で稼げてるんだから、自由に使って欲しいって。颯太が使わないなら桃さんに使ってあげたら?今まで桃さんも我慢してきてるんだろうし。喜ぶと思うよ?」


 オレは昔から色々な物を我慢してきたから、いつの間にか物欲もなくなった。確かに桃姉さんはオレを育てるために若い時から色々我慢してきただろうし、日咲さんの言う通り何かしてあげた方がいいのかもしれない。


 そしてそのまま日咲さんおすすめの鰻屋さんに着き、鰻重を頼む。いかにも老舗って感じだが、きちんと個室があった。


「そう言えば新企画なんだろうね?」


「なんだろうな?最近は色々バラエティーよりの企画も多いしな。まぁVパレスプロダクションの対抗枠なんじゃないか?」


「Vパレはやっぱり面白いよねwあたしたちとは全然雰囲気違うしね?今年は年末に紅白歌合戦みたいな歌の3D企画配信やるらしいし」


「そうなのか?まぁFmすたーらいぶの対抗枠だろうけどな。男女混合グループの強みを活かした企画だよな。うちは女性ライバーしかいないからな」


「女性ねw」


「……なんだよ?」


 オレがそう言うと『別に~?』と言って、運ばれてきた鰻重を食べ始める日咲さん。


 ……別に間違ったこと言ってないけどな。オレは『姫宮ましろ』だからさ。それよりも、オレたちがバラエティー枠を意識して、Vパレスプロダクションさんが3Dライブを意識する。そうやって会社としても新たな挑戦をしつつ互いの良さを吸収していくんだな。


 そしてオレも目の前の鰻重を食べる……確かに美味しいなこれ。脂のノリと塩加減が絶妙だ。久しぶりにこんな贅沢したなぁ。そんなことを思いながらも、日咲さんと一緒に食事を終えて会社に戻るのだった。

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