603. 姫は『新企画』をやるそうです
時間は15時。鰻重を食べて事務所に戻ってきたオレは今、横でアイスを食べている日咲さんと共に次の新企画の打ち合わせが始まるのを待っている。
ちなみにそのアイスは帰りにコンビニでオレが買ったやつだ。いつものように『颯太。アイス奢ってよ』と言われ、『またかよ!』と文句を言いながらもオレは日咲さんにアイスを買ってあげた。
「ん?どした?」
「いや。日咲さんってよくオレに奢らせるよなって思ってさ」
「いいじゃん。颯太はあたしのこと好きでしょ?」
出た。またこうやってオレのことをからかって反応を楽しもうとしてるんだろう。オレの方が一応年上だからな?
そんなことを考えてると高坂さんと……日咲さんのマネージャーさんが入ってくる。確か名前は……若林さん。日咲さんは若ちゃんと呼んでいるから間違いないと思う。
「あっ。またアイス食べてる~神崎さんに奢ってもらったんでしょ?」
「いいじゃん。颯太はあたしのこと好きなんだからさ?若ちゃんもアイス食べる?」
「遠慮しとく。打ち合わせの前にちょっとだけいい?この前のこれ、もう2日過ぎてるよ?どうするの?」
「え?あー……これは……」
と仲良さそうに打ち合わせをし始める。オレは少し離れた場所に高坂さんと移動することにする。同じライバーとは言え、まだ発表してないものや、機密事項はあるからな。
「高坂さんは何かある?」
「え?あー……えるるさんにいつお話しましょうか?早めにマネージャーさんにお伝えしないと」
「なら明日でもいいのかな?長引かせても仕方ないと思うし」
「ちょっと待ってくださいね。えるるさんの配信は……夜はないみたいですね。じゃあマネージャーさんに連絡してみます」
高坂さんはそのままえるるちゃんのマネージャーさんに連絡をし用件を伝える。するとマネージャーさんはすぐにOKを出してくれ、明日の23時にえるるちゃんは事務所に来てくれるようだ。
そしてしばらくして、企画担当者が入ってくる。今回の新企画は大手のカメラメーカー『CameraVISION』さんとの長期コラボ企画らしい。この会社は主に一眼レフのレンズを販売している会社で、特にプロ用の高級なレンズが有名だ。そして最近ではVlog用カメラにも力をいれていて、その商品のPRとして、Fmすたーらいぶとコラボするというものだ。
「今回の案件企画は『ルート47。あなたの街にお邪魔しちゃいます!』というものです。事前にライバー2~3人くらいの組み合わせと行く場所をランダムで決めて、各地の都道府県を旅しながらVlogカメラを使って、その街のおすすめスポットやグルメを撮影してもらい、公式配信で動画投稿するというものです」
「なるほど。旅ロケですか」
「はい。今期からバラエティー枠にも力をいれるためFmすたーらいぶの公式企画の柱の1本にするつもりです。初回は姫宮ましろ、青嶋ポアロの両名の『ましポア』でお願いしたいと考えています」
「おお。面白そうじゃん。つまり旅行するってことでしょ?」
「そうなります。新たなライバーの組み合わせにも期待ですが、今ではVtuberは2.5次元の存在でもあります。普段の姿を知りたいと言うリスナーも多い。もちろん動画は音声だけで、実際は撮しませんけど、それでも普段の姿とは違った一面をリスナーに見せれるのではと考えています」
確かに2次元のエンタメは変わりつつある。いわゆる一昔前のオタク文化なんかは今では当たり前だし、アニメや声優が好きという人も多いし、歌もアニソン、ボカロをカラオケで歌うのも普通だしな。
時代の流れがそうなりつつあるのも事実。Vtuberが現実にいたら見てみたいと思う人は一定数いる。動画上ではよく見るけど実際の姿は見たことないしな。それが今回の旅ロケで見れるというのは良い試みだと思う。
「分かりました。オレは問題ありません」
「あたしも。あ。あの!せっかくなので『ましポア』じゃなくて、もう1人追加しちゃダメですか?」
「構いませんけど、誰かいますか?」
「せっかくだからさ、えるると3人じゃダメかな?ほら颯太はまだあんまり親睦がないし。いい機会じゃん!それにあたしも女の子がいた方が気が楽だし」
「いや……オレは楽じゃないんだが?」
「だから誘うんでしょ?どうせ颯太はこういう事がないと他の子と絡まないじゃん!はい。『#ポエマー』コラボ決定ねw」
いや、確かに日咲さんの言う通りではある。それに強引なような気もするけど、オレのために言ってくれてるんだもんな……まぁ後にえるるちゃんと2人きりになるくらいなら日咲さんがいるなら安心か。