604. 姫は『任される』ようです
新企画の打ち合わせを終え、日咲さんはそのまま夜の配信があるので帰宅し、オレは3期生のマネージャーのミーティングに参加し時間は19時を回る。
本当に打ち合わせばかりだったよ……まぁもう今年も残り1ヶ月だから仕方ないんだけどな。とりあえず帰ったら、さっきの3期生のマネージャーのミーティング内容を彩芽ちゃんに伝えて、明日のサムネを作って……か。そろそろ会社を出ないとな。
オレは自分でやるべきことを整理しそのまま会議室を出て、エレベーターで1階まで降りる。すると……エントランス前に見覚えのある人物が見えた。
「あ。颯太さん!」
「玲奈ちゃんこんばんは。収録?」
「いえ。打ち合わせしてました。えっと……ちょっといいですか?」
そう言ってオレの腕を掴み、誰もいない休憩室まで連れて行かれる。そして玲奈ちゃんはキョロキョロして誰もいないことを確認したあとオレに話し始める。
「あの私のSNS見ました?」
「え?ゴメン。忙しくて全然チェックできてなかったよ」
「そうなんですね。実は……私10月10日が誕生日なんです」
「そうなの?知らなかったからごめんね。何かプレゼントあげないとね」
「それは大丈夫なんですけど、1ヶ月前から色々話し合って、やっと事務所の許可が出たので……実は今日凸待ちをしようと思ってるんです」
「凸待ち?」
オレはそのまま玲奈ちゃんのSNSをチェックすると『緊急!本日。重大発表凸待ちやります!Fmすたーらいぶのみんな、Newソフィアに会いに来てね(^○^)』と投稿されていた。
……重大発表?なんだろうか
「それで、颯太さんにも凸待ち来てもらえないかなぁ……って。一応このあとディスコードの募集ところにチャット送るんですけど。どうですか?トリをお願いしたくて」
「トリ?最後?オレが最後の方がいいの?」
「はい。実はこの重大発表って……私が18歳になったことを話そうかなって。かなりインパクトあると思いますし、私は今までリアルお嬢様だから夜配信してないと思われてると思いますし。それは今まで皆さんが守ってくれてたのも分かってます。でもやっぱり……デビューしてから、ここまで応援してくれてるソフィ友には何でも話したいかなって」
「そうか。法律上はもう22時以降配信も問題ないのか」
「はい。マネージャーさんが色々動いてくれて、会社の許可も出ましたし。あとは……萌ちゃんも『いいよ。これでキッズだと言われなくなるかなぁw』って言ってたし」
「それはどうかなwまぁ……オレで良ければ凸行くよ。時間は21時30分からやるのね?オレの出番は23時前くらいかな?OK待機しておくよ」
そうか……玲奈ちゃんももう18なのか。初めて会った時は16か。早いもんだな……
「ということで颯太さん。晩酌は出来ないですけど、オフコラボも22時以降も配信できますから!これからもよろしくお願いしますね?」
「うん。こちらこそ」
「はい!ありがとうございます!」
そう言って玲奈ちゃんはエントランスの方に走っていく、その後ろ姿はどことなく楽しそうだ。
そしてオレも会社を出て駅に向かう。そのまま電車で自宅に帰り、オレは明日のサムネを作りながら玲奈ちゃんの配信を待機することにする。すると彩芽ちゃんが部屋にやってくる。
「あの……颯太さん」
「どうしたの彩芽ちゃん?」
「えっと……まだ先なんですけど……その……お母さんがお正月休みに颯太さんと帰ってきたらって」
「オレも?」
「はい……お父さんも……そう言ってるみたいで……一緒にお酒飲みたいって言ってるそうで……どっどうですか?」
「そうなの?もちろんいいよ」
彩芽ちゃんのお父さん……ちょっと寡黙で怖い印象しかないんだけど……でもまぁお誘いしてくれてるってことは、オレのことを少しは認めてくれてるんだろうけど。あと姫宮ましろの『親衛隊』かもしれないしな。
「ありがとうございます。じゃあ……お母さんに伝えておきますね?」
「あ。うん。よろしくね。それと……彩芽ちゃんは玲奈ちゃんの凸行くの?ディスコードの募集にチャット来てたけど」
「もちろんです。自分の配信があるので、配信中に行くことになると……思いますけど。同期ですし……嬉しいことですから」
「そっか。きっと喜ぶよ玲奈ちゃん」
「はい。私も配信の準備しますね?」
そう言って彩芽ちゃんは嬉しそうに部屋を出ていく。彩芽ちゃんも成長したよな……『もちろんです』か。そんなこと今まで言ったことないもんな。本当にいい方向に変わってる。オレも頑張らないとな……