610. 姫は『増える』そうです
オレは事務所で、自分が『姫宮ましろ』であることを明かした。さて、明日香ちゃんはどう思ってくれているんだろうか?オレは息を呑みつつ、彼女の返事を待っていると……
「えっと……ちょっと待ってくださいね!今頭が混乱してて……」
「明日香。まっしろえるるになってんじゃんw」
「七海ちゃんさそんなこと言ってる場合じゃないから!」
「あはは。というか颯太、結構さらっと言うんだね?」
「回りくどくても仕方ないだろ」
目の前には突然の暴露に色々考え込む明日香ちゃん。まぁ……そうだよな。受け入れがたい事実だもんな。
「えっと……あの……ってことは、アタシの目の前にいるのは『ましポア』ってことですか?」
「え?ああ……そうなるね」
「おお……お子ちゃま組なんだw」
「明日香。最初に聞きたいのそれなのw」
「とりあえず、オレが『姫宮ましろ』として活動している経緯を話すよ。それから判断してくれればいいから」
オレはそのまま明日香ちゃんになぜ『姫宮ましろ』として活動しているかを話し始める。まずはオレと桃姉さんの関係から今までのことを話す。そのオレの話を聞いて無言になる明日香ちゃん。おそらく色々な情報量が多すぎて処理できていないのだろう。まぁ急にこんなことを言われて頭真っ白にならない方がおかしいからな。
「というのが経緯かな。オレの気持ちとしてはこのままVtuber『姫宮ましろ』を続けていきたいと思っているんだ」
「明日香。颯太は一生懸命に『姫宮ましろ』として活動しているから。だから応援してあげて?もし嫌だとか、ありえないって言うなら仕方ないけどさ」
「えっと……アタシは姫先輩を尊敬していますし、親衛隊でもあります。でも……正直、神崎マネージャーさんが『姫宮ましろ』だったなんて……」
「ごめん。今まで隠してて」
「あ。いえ!全然気にしないでください。つまり神崎マネージャーさんはバ美肉ですよね?まさか身近にいたなんて想像してなかったし……その……すごく驚いてます。でもでも!Vtuberって何にでもなれるじゃないですか?成り行きとはいえ、ここまでチャンネル登録者を伸ばして人気Vtuberになれるなんて神崎マネージャーさんスゴいですよ!更に尊敬します!」
「えっと……ありがとう?」
さっきまでの動揺はどこに行ったのか。明日香ちゃんは目を輝かせながらオレにそう言ってきた。よかった。拒絶されたらどうしようと思っていたのだが……オレは思わず笑みがこぼれる。日咲さんはそんなオレと明日香ちゃんのやり取りを見て、ニヤニヤしている。
「……なんだよ?」
「別に~?良かったじゃん」
明日香ちゃんに聞こえないくらいの声でオレにそう話す日咲さん。まぁ……そうだな。とりあえず良かった。そのあとオレの正体を知っている人などを話した。
「なるほど。本当に驚くことばかりで……なんか心臓が痛いw」
「ちなみに明日香さ。更に驚くかもしれないけど、ここ3人のコラボも決まってるからねw」
「えぇ!?コラボ!?嘘!?」
「嘘じゃないよwしかも外ロケだよ。ね?颯太」
「うん。まぁその件もあるから、オレの正体を明かしたんだけどね」
「ヤバすぎwあっ。あの良かったら……アタシも名前で呼んでもいいですか?その……『神崎マネージャーさん』って呼ぶのはなんか……もう違和感でw……それに!もうアタシも友達ですよね?」
違和感と言われても……マネージャーなのは変わりないんだけどな……しかもなんて呼ぶんだろうか。友達とは少し違うような気もするが、明日香ちゃんなりにオレに歩み寄ってくれているのを否定する必要もないよな。
「神崎颯太ですよね?じゃあ……颯太っちとか?」
「その呼び方可愛いじゃんw」
「いや……まぁ好きに呼んでくれていいけどさ」
「じゃあ決まり!これからよろしく颯太っち!」
「あっ!というかさ、颯太はあたしのこと日咲さんで、明日香のことは明日香ちゃんじゃん?あたしのことも七海ちゃんって言いなよ!」
「言いなよって……日咲さんは同期だし、ほら……なんか七海ちゃんは違うだろ?」
日咲さんを七海ちゃんと呼ぶのはなんか抵抗がある。というか恥ずかしいし、普通にタメ口で話してるから今更感もあるし……というオレの考えを察したのか日咲さんは不貞腐れた顔になる。
「えぇ……何それ。なんかムカつくんだけど?」
「分かったよ……七海でいい?今さら『ちゃん』付けは恥ずかしいし」
「まぁいいでしょ。ということで明日香、秘密守れよな~?」
「七海ちゃんが出来てるのにアタシが出来ないわけないから大丈夫w」
「こらこらバカにしてんのそれw」
こうしてオレは新たにえるるちゃんこと明日香ちゃんに正体を明かし、更に親友が増えたのだった。