612. 姫は『外』に出るようです
寒空の12月。それでも冬晴れというものなのか、雲一つない青空が広がっている。この空を見たら自然と気分は明るくなるよな。
「いやぁ……楽しみだよね。初めて会うからどんな子なんだろうね?」
オレは今、ある場所である人物を待っている……という設定を演じている。そう、『ルート47。あなたの街にお邪魔しちゃいます!』の外ロケ動画で使うためのワンシーン。ここは栃木県宇都宮駅の餃子の像前。ちなみに内容としては餃子の名店を回り、東大卒のえるるちゃんのガイドで日光東照宮を観光し、最後は温泉旅館で宿泊という内容らしい。
「颯太撮れた?」
「ああ。大丈夫だと思う」
「じゃあ次は明日香よろしく」
「アタシは向こうから歩いて来て、颯太っちと挨拶すればいいんだよね?」
「台本だと……颯太が『あの子かな?』みたいな台詞、明日香が緊張しながらって小走りで行って初めまして。っでそのあとはアドリブって書いてあるけど、出来んの明日香w」
「初めましての感覚でやればいいんでしょ?全然問題なし!」
自信満々の明日香ちゃん。オレはそのままスタンバイし、彼女はこちらに向かって歩きながらキョロキョロと辺りを見渡している。オレはそんな明日香ちゃんに手を振って、彼女が驚かないようにする配慮だ。とりあえずさっきの続きだよな。
「ん?あの子……かな?キョロキョロしてるしwとりあえず手を振ってみる?……あ。やっぱりそうだ」
「あっ初めまして!よろしくお願いいたします」
「うん。こちらこそよろしくね」
「えっと……めっちゃお清楚ですねw他の人とは違うオーラ出てましたw身バレしますよw」
「え?そんなことはないでしょw普通の格好だよ。それよりも、えるるちゃん可愛い格好だね?」
「当たり前じゃないですか!アタシ。今日のためにバッチリ決めてきましたから!あ~緊張する!推しが目の前にいるの!夢じゃないよねこれ!?」
オレと明日香ちゃんは台本通り挨拶を交わす。これであってるよな?オレの心配をよそに、明日香ちゃんは多少過剰気味だが自然にセリフを言うことが出来ていた。これなら問題なさそうだな……
「あはは。夢じゃないよ。それよりポアロ探偵遅いね?」
「コンビニでお菓子とかアイス買ってるんじゃないんですかw」
「それはあり得るw」
「あっ。来ましたよw」
「おはよう!今日はよろしくね!……と。どう大丈夫?」
と必要最低限のシーンは撮れただろ。この後は餃子を試食するんだよな。
「よし!それじゃ餃子を食べに行くぞ!あたし色々調べといたからさ」
「え?指定の店があるだろ?」
「そこも行くんだよ。ダメだな颯太は。大体こういうのも調べておくのが、男の子の役目でしょうに。ね?明日香?」
「そう?七海ちゃんって、香澄さんと同じで引っ張ってくれるオラオラ系が好きなの?」
「いや違うよ。香澄と一緒にすんなwあたしはスマートにエスコートしてくれる紳士が好みだから」
「スマートな紳士w」
「何笑ってんだよ明日香w」
オレの目の前で仲良く話している2人。そうかこの2人も同い年だもんな。そりゃ話も合うだろうしな。
「何してんの?ほら行くよ?」
「ごめん。今行く」
オレはそのまま2人について行き、市の中心部にある餃子の店に向かうことに。店内に入ると、事務所が用意したお店なので個室に案内され、オレたち3人は向かい合う形で席についた。
それにしても……仕事だが、普通に女性2人と旅行してるんだもんな。なんか緊張してきたぞ……そしてオレたちは早速運ばれてきた餃子を食べるシーンを撮影することにする。
「うわぁ……美味しそう!しかも1皿290円とか安くてヤバくないですか!?」
「えるるちゃん楽しそうだね。安くて美味しいのが宇都宮餃子のいい所でもあるからね」
「というか姫って餃子食べるんだねw」
「なんで?普通に食べるけどw」
と外ロケ動画を撮っていく。オレは今まで外ロケをあまりしたことないから、少し新鮮な感じもする。それに日咲さん……いや七海はやっぱり1期生だから色々しっかりと段取りやら撮影やら手慣れてるよな。オレも見習わないと。
「あ。明日香それよそってよ」
「えw」
「ポアロ探偵これ撮ってるんだけどw」
「あ!ごめんwえるる、それよそって」
「あのさw動画編集するスタッフさんの気持ちになってもらえますかポアロ先輩w絶対『ピーッ音』入ってますよw」
「うるせぇ!こっち先輩だぞw」
……見習うのはやめておこう。その後、無事に餃子を試食したオレたちは店を出る。さて次は日光東照宮観光だな。