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第63話

 龍人は音楽が好きというだけあって、千尋はどの歌もあっという間に弾けるようになってしまう。人間とはやはりそもそもの作りが違うのかもしれない。


「素晴らしいクリスマスですね。なるほど、これを毎年するのですか」

「ツリーを買ってきたは良いものの、どうしたらいいか分からなかったから楽しかったよ。ありがとね、鈴」

「いえ、とんでもないです。私もとても楽しかったです。ありがとうございました」


 クリスマスにもう両親は居ないけれど、新しく家族と呼べる人たちと過ごす事が出来たのはとても幸せな事だ。そしてこれがこれからずっと続くかもしれないと思うと胸が踊る。


「そう言えば千尋さまは今年の終わりに龍の都に戻るのでしたか?」

「ええ。期日をきっちり守るのであれば、明後日に発つつもりですが、どうかしたのですか?」


 ピアノの蓋を閉じてやって来た千尋は、そのまま鈴の正面に座る。


「あ、いえ、神森家はその、お正月とかするのかなって……思いまして」

「正月ですか? 普段なら一応しますよ。龍神の私が正月を祝わないのも何か違和感がありますから。でも来年は私は居ませんから雅達にお任せですね」

「あんたが居ないなら別に何もしないつもりだよ。とは言えうちの正月もそこら辺の家の正月と何ら変わりゃしないけどね。正月がどうかしたのかい?」


 雅の言葉に鈴は恐らくあからさまに残念そうな顔をしていたのだろう。二人が心配そうに鈴の顔を覗き込んできた。


「その……私、実は日本に来てからお正月ってした事なくて、どんな事をするのかなって少しだけ興味があったと言いますか……でも、来年はしないだけですもんね! 再来年を楽しみにします!」


 楽しみが伸びただけだと思えばいいだけだ。待つ楽しさも鈴は大好きだ。そんな事を考えながら微笑んだ鈴を見て、千尋と雅が顔を見合わせる。


「そうだったのですね。では今回はあちらへ戻るのは3日以降にしましょうか」

「え!?」

「え……本気かい? あんた今まで帰る日をズラした事なんて無かったじゃないか」

「そうでしたか?」

「そうだよ! 毎回毎回、帰る一週間も前からずっとソワソワしてさ! 何聞いても上の空でさ! いいのかい? 一週間もあっちに居る時間が減るんだよ!?」

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