久しぶりのクリスマスが終わっても、鈴はなかなか寝付くことが出来なかった。
「はぁ……楽しかったな……クリスマス」
あと何回ぐらいこんな風にクリスマスを過ごすことが出来るのだろうか。千尋は龍に嫁ぐと短命になると言っていたが、どれぐらい短命になるのかまでは教えてはくれなかった。
「短く太く生きる、か」
以前はぼんやりとしか実感する事が出来なかった自分の人生が、神森家にやってきてようやくはっきりとしたような気がする。
今まで諦めていた字を覚えたり歌を好きな時に大声で歌ったり、お菓子作りだって佐伯家に居たら出来なかった事だ。
「楽しかったな」
鈴はもう一度呟いて目を閉じる。
両親を立て続けに亡くした時は、これほど不幸な人生があるのかと思っていた。
佐伯家に引き取られてしばらく経った頃、そんな風に考えるは止めて出来るだけ何でも良い方向に捉えようと努力し続けた。
気がつけばそれが鈴という人間になっていて、神森家にやってくる事が出来た。全ての事は無駄ではなかった。
けれど、どうしてたまに何もかもぐちゃぐちゃにしてしまいたいと思うのだろう。幸せだと感じれば感じるほど、必死になって隠してきた寂しがりやで泣き虫で臆病な本来の自分が悲鳴を上げる。
鈴は目を閉じてゆっくりと深呼吸をした。そうすると心が途端に穏やかになっていく気がした。
「千尋さま、やっぱり私の血もいつか穢れてしまうかもしれません……」
千尋を失望させたくない。雅や喜兵衛や弥七にはこんな所見られたくない。
それぐらい、いつの間にか神森家の人々は鈴にとってとても大切な人たちになっていた。
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「私はいよいよ明日から都に戻りますが、家の事は任せましたよ、皆さん」
そう言って朝から全員の顔を見回すと、皆はしっかりと頷く。今までの里帰りにここへ呼ぶのは雅と喜兵衛と弥七だけだった。この場に花嫁を呼ぶのは初めての事だ。
とは言えまだ佐伯家から返事を貰っていないのだが、もう鈴以外を花嫁にする事など考えてもいない。最悪力を使ってしまおうかと考える程度には鈴の事はお気に入りだ。
「それから、年末年始は皆で揃って休暇をとるように。いいですね?」
「どういう事だい?」
「こうでも言っておかないと、雅はともかく他の方たちは普段通りに働きそうですからね」