千尋はホッと胸を撫で下ろして鈴の頭を撫でる。
「女学園ではそういう関係が流行っているそうです。上級生と下級生が特別な関係になる事を言うそうですよ」
「へぇ」
よく分からないが、とにかく悲しい話だったようだ。千尋は鈴のまだ涙の跡が残る頬を人差し指で掬うように撫でた。
「今度からは楽しい話かどうかも調べてから購入しないといけませんね」
「はい」
グス、と鼻をすすりながら頷く鈴に腕が勝手に動きそうになる。
「?」
そんな自分自身の行動がよく分からなくて思わず首を傾げた千尋を、鈴が不思議そうに見上げてきた。
「どうかされましたか? そう言えば何かご用だったのでは?」
「いえ……ああ、そうでした。ここを発つ前に少しあなたに力を分けておこうと思いまして」
「痛み止めのですか?」
「ええ。どれぐらい効果があるかは分かりませんが、何もしないよりはきっとマシでしょう」
「ありがとうございます。お手数をおかけします」
そう言って鈴は千尋を部屋に招き入れてくれたのでそれに従って部屋に入ると、ソファに腰掛けて鈴に手招きをした。すると鈴がおずおずと近寄ってきたので、すかさず千尋は両手を差し出す。
「あの、千尋さま」
「はい?」
「その……どうしても手を繋がなければいけませんか?」
「別に手でなくても構いませんよ? どこか体の一部が触れていればそれで」
「か、体の一部……」
鈴はそれだけ言って一瞬固まると、そっと手を差し出してきた。どうやら色んな体の一部を考えて、手が一番良いという事に気づいたのだろう。
「座って楽にしてください」
「は、はい」
戸惑いながら千尋の隣に腰掛けた鈴の手を取ると、そっと力を鈴に流し込む。今回は前回よりも多目に流すので、少し時間がかかりそうだ。
ちなみに鈴はと言えば、がっちりと指の隙間を埋めるように手を繋いだ状態に緊張しているのか、完全に固まってしまっている。
「冷たい手ですね。薪を足すよう雅に言っておきましょうか」
「いえ! 自分で取りに行くので大丈夫です」
「そうですか?」
「はい」
鈴の手は水龍の千尋よりも冷たくて、まるで氷のようだった。よく見れば指先は乾燥して可哀想なほどカサカサだ。
そんな鈴の指先を見て千尋は思った。次の贈り物は手に塗るクリームを用意しよう、と。