「神通力まではいきません。これはただ単に私の力であなたの体内の巡りを浄化しているだけですよ」
「そうなのですね」
「はい。私が神通力を使うのは決まった時だけです。それ以外には今の所使った事がありません。神通力と言うのは自分の属性では無い力や過剰な力の事を言うのですよ。ですが今鈴さんに流した力は龍が普段から使っている簡単な属性の力です。私は水龍なので水を浄化する事が出来るのですよ」
「そうなのですか……神通力というのはとても貴重なお力なのですね」
「そうですね。龍は自然から力を貰うので、神通力を使った後は回復にとても時間がかかってしまうのですよ」
「それはいざという時の為にとって置かなくてはいけませんね」
「ええ。そのいざと言う時が来ない事を祈るばかりですよ」
千尋はそう言って最後の力を鈴に流し込む。
「さあ、終わりました。どうですか?」
何だか名残惜しいと思いながらも鈴の手をそっと離すと、鈴は立ち上がってその場でくるりと回って微笑んだ。
「何だか体が軽いような気がします!」
「それは良かったです。もしも私の居ない間に何かあれば、すぐに雅に言ってください。雅から私にいつでも連絡が入るようになっているので」
「雅さんは龍の都に連絡をする事が出来るのですか!?」
「ええ。彼女は私の契約者ですから。もちろん、あなたが正式にここへ嫁げばあなたにもその力は与えられますよ。ただ、今回戻ってきたら次に私が都へ行くのは100年後ですが」
「その頃には私はきっと、千尋さまの元へ還っていると思います」
そう言って苦笑いを浮かべた鈴を見て何だか胸が苦しくなる。
そうだ、鈴と共に居られるのは千尋からすればあとわずかしか無いのだ。
花嫁になる人間に珍しくそんな事を思った千尋は、初めて都に戻りたくないなどと考えてしまった。
そして、やはりあと一週間ほど地上に居て鈴と大晦日と正月を過ごそうか、などと本気で考えそうになる自分自身に一番驚く。
そんな千尋の心など知らない鈴は無邪気に微笑みかけてくる。
「そうだ。お聞きしようと思って忘れる所でした」
「何でしょう?」
「龍の都はここからどれほどの距離があるのでしょうか?」
「都ですか? 距離は相当ありますが、私は龍の姿に戻るので一瞬でたどり着きますよ」
「一瞬?」
「ええ、一瞬」
「……そうですか」