「はい……私もビックリしてます。あんなにも自分から夜更かししたのは生まれて初めてだったかもしれません」
鈴の言葉に雅と喜兵衛は揃ってギョッとしたような顔をする。
「初めて!? あんた、流石にそれは嘘だろう?」
「いえ、本当に。ここに来た日に寝付けなくて朝方まで眠れなかった事はありますが、子供の頃は夜更かしすると悪魔が来るって言われていたし、佐伯家では寝坊したら打たれるので夜更かしなんてした事ないです」
「……打たれるって……」
「まぁ、佐伯家はあんたの事を女中か何かだと思ってたんだろうさ。で、初めての夜更かしはどうだった?」
ニヤリと笑った雅に鈴も肩を揺らして笑う。
「ドキドキしました! 何だか凄く悪いことをした気分です!」
「その割には楽しそうじゃないか」
「これぐらいの悪事なら一度はしてみたかったので」
「そうかい? そんなあんたに朗報だ。大晦日は夜更かしどころか徹夜するんだよ」
「え!? て、徹夜、ですか?」
「そうさ。年をまたぐ時は厄介な奴らが出てくるって言われてんだ。だから夜通し起きていてその厄介者達を追い払うんだよ」
「や、厄介者というのは、その……お化けの類でしょうか?」
「そうさねぇ。お化けもいるかもねぇ」
「こ、困ります! お化けはいけません!」
何せお化けが大嫌いな鈴だ。そんなものが出たら間違いなく卒倒する。困惑する鈴を見て喜兵衛が呆れたような顔をしながら雅に言う。
「姉さん、怯えてるじゃないですか。どうしてそんな嘘つくんですか」
「いや、ごめんごめん。冗談だよ、鈴。大晦日に徹夜すんのは、年神様を迎える為なんだよ」
「年神様?」
「そうさ。十二支の神様達だよ。彼らを盛大に迎えるために大晦日は徹夜して騒ぐ。それが大晦日だよ」
「では、おせちというのは?」
「おせちってのは、季節の変わり目に神様に供物を供えてたのが始まりだ。それがいつの間にか一緒になっちゃったんだよ。ちなみにあたしは今のおせちはそんな崇高な物じゃなくて、毎日家事をしてくれる人への感謝の気持ちだと思ってる」
「感謝の……気持ち」
「そうさ。大晦日に沢山作っておいて、正月は誰もな~んにもしない。皆で福笑いしたり初詣行ったり、書き初めをしたりしてまったりする。年神様もいいけど、常日頃から世話になってる人への感謝の気持ちだよ、おせち料理は」