それを聞いて鈴は思わず頷いてしまう。それは何だかとても良い。どう言えばいいのか分からないが、単純にそう思った。
「おせち料理に大晦日……楽しそうです!」
「まぁ、その分大晦日は朝からおせちの仕込みですが」
喜兵衛がポツリとそんな事を言うので、思わず鈴は身を乗り出した。
「頑張りましょう! 私も朝から手伝うので!」
「は、はい!」
鈴のあまりの勢いに喜兵衛は思わずと言わんばかりに頷いて苦笑いを浮かべる。
「鈴さんの初めての正月です。楽しい物にしましょう」
「はい!」
手を叩いて喜ぶ鈴を見て雅がおかしそうに言う。
「早めに大掃除を終わらせておいて正解だったね、こりゃ」
まさか正月で鈴がそれほど喜ぶと思っていなかったのか、それから雅と喜兵衛があれこれ正月ならではの遊びを沢山教えてくれた。
「千尋さまも居れば良かったですね……」
「鈴さん……」
「そうだね。でも再来年はどのみち一緒に居るんだ。あんたは今回の事を練習ぐらいに思ってな」
「そうですね。しっかりマスターしたいと思います!」
千尋とする正月で粗相をしないように、全力で正月を楽しもう。それが多分、神森家の人たちは一番喜んでくれるだろうから。
「ところで初詣はどこへ行くんだい? 千尋に地図貰ってたろ?」
「それなんですけど、私、やっぱり余所の神様の所に行くのはどうかなと思って」
「千尋に嫁ぐんだからって事かい?」
「はい。前に千尋さまから聞いたのですが、ここがお社だった頃の名残というのはどこなのでしょう?」
「社だった頃の名残? そりゃ北の林の中だよ。元々あそこに本殿が建ってたんだ。その名残が今は小さな祠になって残ってるんだよ。さらにその奥は禁足地になってて千尋しか入れないんだ。全く、あんな所に何を隠してるんだか」
「あそこは彼岸の世界との境界だから俺たちが迂闊に入ると二度と戻れなくなりますよ、姉さん。そして肝心の祠は既に朽ち果てかけてますね……」
そう言って喜兵衛は遠い目をする。どうやら本殿を取り壊す時にその祠に御神体を移したようだ。とは言え御神体は千尋本人なので、その祠に何が祀られているのかは謎である。
「明日、お掃除をしてきても構いませんか?」
「もちろんさ。屋敷の大掃除も終わらせたし、次は外の掃除をするつもりだったんだ」