「どうなのでしょうね。大体は皆さんこんな感じなのではないでしょうか、あ、流星達の所は別ですが」
「へ、へぇ……まぁでも千尋さまは元々恋愛には現を抜かしたりしませんもんね。俺にもそのうち番が出来るのかなぁ」
「出来ますよ、きっと」
「どんな子かなぁ! 可愛い子がいいな!」
「顔で選ぶのですか?」
「んー……分かりませんけど、やっぱり自分の遺伝子に足りない部分を補いたいじゃないですか! いや、だったら俺の場合は頭脳の方も……」
「楽は十分に可愛いではないですか」
「か、可愛いじゃなくて格好いいって言われたいんです!」
「格好いい、ですか。それは私も言われた事ありませんね」
「いや、千尋さまは美しいですから……格好いいとか可愛いとかそういう次元じゃないんですよ……千尋さまは美形という分類だと思うので、そこはもう補わなくて良いです」
「そうですか? 悪い気はしないので具材を好きなだけ追加してもいいですよ」
「本当ですか? やったー!」
無邪気な楽に千尋は目を細めて言うと、楽は素直に喜んでメニューを食い入るように見つめていた。
翌日、千尋が今日も書庫に行こうとしていた所を、流星に捕まった。
「ちーひろくーん! あーそーぼー!」
屋敷の前で大声でそんな風に叫んだ流星を楽は慌てて屋敷の中に招き入れ、そのまま出かけようとしていた千尋の部屋に飛び込んできたのだ。
「あまり時間が無いのですがね」
千尋は言いながら着ていた外套を脱ぐと、そのまま居間に移動する。
「どうかしましたか? 流星」
「単刀直入に聞いてもいい?」
「はい、何でしょう?」
「千尋くんってさ、初の事……本当に好き?」
あまりにも唐突な流星の言葉に、珍しく千尋は言葉を失ってしまった。そんな千尋がおかしかったのか、流星が笑う。
「ごめんごめん、急に。でもさ、どうしても聞いておきたくて」
「いえ、それは構いませんが、好きというのはどういう意味合いの事を指していますか?」
「いや、どういうも何も恋愛の意味しか無いけど。だって、番でしょ?」
「そうですね。番ですね。ですが、私の番の認識は優秀な遺伝子を残すため。それにつきます。初は姫という時点で血統に申し分ありませんし、周りもそれを望んでいるでしょう? 何よりも初がそれを望んだので、罪滅ぼしをしたかったというのもあります。そもそも私達はあなたと違って初が運命の番という訳ではありませんしね。初には番の加護など一生渡せないと思いますよ」
優秀な血統を残す。高官の役職についている者には特にそれを求められる。それが龍の世界だ。それを聞いて流星は困ったように笑う。
「あー……やっぱ千尋くんだなぁ。そうだよね。千尋くんはそもそも恋愛っていうか、愛がよく分からない人だもんね」
「酷い言われようですが、そうですね。最近特によく言われていたので、そろそろ耳が痛いですね」
「あ、よく言われるんだ? あの猫ちゃん?」
「ええ。今期の花嫁を最初は全力で否定してきていました。まぁ……彼女の言う事はもっともだったんですけど」
鈴の事を心配するあまり、千尋に「鈴に金を渡して追い出せ」と言ってきた雅は、今思えば正しかったのかもしれない。
以前は鈴一人の人生よりも国を守る方が大事だなどと啖呵を切ったが、日に日にそうは思えなくなてきている自分に、自分自身が一番戸惑っている。
「でも決まったんでしょ? 飲み会でも言ってた」
「ええ、決めました。彼女が最適です。ですから私は朝から晩まで書庫に入り浸っているのですよ」
「何でまた。それとこれって関係あるの?」
「大いにあります。龍の花嫁は皆、極端に短命になってしまうのです。どうにかしてそれを食い止めたいのですが、どうすれば良いのか分からないんですよ」
「そんな事初めて聞いた。今までの花嫁も短命だったんだよね?」
「ええ。色々と試行錯誤はしましたが、全て無駄でした」
「ふぅん。で、今回はこっちで調べようと思ったって事か。それじゃあ今は初どころじゃないんだね」
痛い所をついてくる流星に千尋は小さく微笑む。そんな千尋を見て流星は納得したかのように頷いた。
「そうですね。いえ、こんな事を言ったら鈴さんに叱られそうですが」
何せ恋人が待っているのだから戻れと言われたぐらいだ。鈴の中で千尋はあくまでも龍神で、鈴自身は国の役に立てるのならそれでいいと思っているような少女だ。