俺が錬成したのは、暗黒色の盾…… 名を問われたら 《夢幻神の盾》 とでも答えるか (ちょっと厨2ぽいが)
―― 素材の1つは、地面から錬成した高純度のシリコン。前世では太陽光発電のパネルに使われていた…… 光のエネルギー吸収効率が、ものすごく良い物質だ。
そしてもう1つの素材は、
なぜなら、
―― 以前
俺が
だが、魔族やエルフは、
人間とエルフや魔族との違い…… それは、活動のエネルギー源が酸素か
魔族やエルフの場合は、活動に必要な
だとすれば ――
俺が錬成した 《夢幻神の盾》 は、魔法攻撃のエネルギーをほぼ100%吸収できるはず……!
{ふうう…… もう、おなかいっぱい、なのです……}
「よし、イリス。この盾にとりつけ! エネルギーを渡してもいい!」
{はいです!}
ぷっぴゅん!
イリス 《スダーシャナ・チャクラの姿》 が 《夢幻神の盾》 に、ぶつかってくる…… すごい衝撃だ。
先にイリスが吸収した魔法攻撃のエネルギーを、盾に渡しているのだろう。
盾を持つ俺の、全身に。
びりびりと、震えが伝わる。
{ふうー! 合体、完了なのです!}
暗黒色の盾が太陽の光輪をまとった。
《真・夢幻神の盾》 …… いや、 《無限の盾》 にグレードアップだな。
俺がかかげる、イリス合体 《無限の盾》 ―― そこに、男が放つ魔法攻撃が…… 空間を歪め、容赦なく、突き刺してくる……!
首筋が、ちりちりするような感覚。
本能的な、恐怖だ。
強力な魔法攻撃は、もし当たれば一発で即死だろう。
盾で受けるだけでも、相当なダメージが……
あれ?
「
ふわっとしてるよ、ふわっと。
「すごいな、イリス!」
{合体したおかげで、余裕なのです!}
シ
「なに……!?
「うん、ただの盾じゃ、ないもんで」
「なん…… だと……」
盾の向こうでは、男がけっこうベタなリアクションで驚いてくれている。
「あのかた以外で、そのようなことが、できるとは……」
「あのかた? ボスか?」
「あなたがたには、関係なきこと」
「だったら言うなよ」
ふっと魔法の勢いが弱まった…… 切り替えるのか。
より強力な魔法か、あるいは、物理に。
―― なら、隙ができるのは、いまだな。
「ならばっ……」 「イリス、
俺と男の声が重なり。
ほぼ同時に、剣を構えた男が跳躍し、頭上から斬りかかってくる ―― 俺が盾を持ち上げるよりより、速い!
防ぎきれない…… 通常なら。
だが、剣が俺の頭を割る前に。
《無限の盾》 の
{ゆっるさないのですぅぅぅぅぅぅ!}
膨大なエネルギーとイリスの怒った声が、ひといきに放出され、強烈な光が男を覆う……
見たら網膜が
推定1,
俺は、反射的に目を閉じた。
―― 強烈な光が消え、俺が再び、目を開けたとき。
戦闘により
ギルとジャンの2人は、戦闘前に男がどこかに転送 (!?) したと考えるのが順当だ。
だが、あの魔法使いの男のほうは……?
もしや 《無限の盾》 から放出されたエネルギーが膨大すぎて、跡形もなく消されてしまったんじゃ、ないだろうな……?
俺の背筋を、ひやりとしたものが走り抜けた。
{やったのです、か……?}
俺に問いかけるイリス 《合体・無限の盾の姿》 の声も、少し震えているようだ。
―― 口ではよく 『邪魔する者はぶっ殺す』 的なことを言っているが、優しい子だもんな、イリスは。実際にぶっ殺してしまったら、ショックを受けるに違いない……
「まあ、やったとしても、心配するな、イリス。正当防衛だ」
{…… ですね。当然なのですっ!}
ぷっぴゅん!
イリスが少女の姿に戻る。
俺たちは、おそるおそる、やつがいた場所に近づいた…… あ、さっきの心配。まるきり、無駄だったわ。
―― やつが消えたあとの地面には、メッセージが残されていたのだ。
砂漠の砂か……? さらさらとした細やかな粒子が
『
読む端から、砂のメッセージは風に散らされて消えていく ―― イリスが、握りこぶしを固めた。
{なんか、イラッとするのです!}
「まじそれな」
まあ、それは置いといて。
―― 去る? ―― 後始末?
いったい、どういうことだ?
「まあ、とりあえず、工場に隠れたみんなを、迎えに行くか」
{ゆっくり行くのです! …… ええっと、だって、ちょっと疲れたのですから……}
「それはそうだ。活躍してくれたもんな、イリス。ほい、抱っこしようか?」
{はいです!}
ぷるんっ
イリスが俺の腕にとびこんでくる…… 少女の姿のままで。
「……っ! すまん、スライムになってくれ、イリス」
{ぷう……!}
ぷう、って、なんだ?
とりあえずスライムの姿になってくれたイリスを抱っこし、俺は、ゆっくり工場へ向かった。
工場には、ソフィア公女とゼファーとコモレビ姫が、鳥人の長老たちを連れて避難している。
鳥人の長老なら、いま俺がバトルした魔法使いの男について、知ってるだろうか ―― 工場についたらまず、やつのことを聞いてみて。
それから、
工場の入口では、ソフィア公女とコモレビ姫が待ってくれていた。翼竜のクウクウちゃんも一緒だ。
「リンタロー! 無事でよかったわ! クウクウちゃんもコモレビ姫も、ゼファーも、心配していてよ!」
「ああ、ありがとう、ソフィア公女…… コモレビ姫も」
「はい…… けれど、リンタロー様なら、大丈夫…… 〈うわああああん! リンタローはん!〉
コモレビ姫が言い終わる前に、ゼファーが泣きながら割って入り、俺に抱きついた。
〈死んだらどないひょ、思うたら、生きた心地もせんかったわあああ!〉
{大丈夫ですよ、ゼファーさん! リンタローさまは、わたしが絶対に守るのです!}
〈わかってるけど…… でも、こわかったんやああああ! あんなすごい光、うち、みたことないんやもん……〉
「ああ、あれは、俺たちの攻撃で……」
連れだって工場のなかに入りながら、俺は先程の戦闘をざっと説明する。
ゼファーが、目を丸くして軽く飛び上がった。
〈えええ!? すごいやん! リンタローはんも、イリスはんも!〉
「ほんとうね。魔法攻撃を無効化して反射する、ということでしょう? いままでにない盾でしてよ、それ」
{ソフィアさん、ほめすぎです!}
「いえ…… ほんとうに、すごいと…… 思います……」
{コモレビさんまで! もうもう、なのですぅ!}
てれたイリスから、グリッターがほんのり立ちのぼった。
鳥人の長老たちは抽出室で、金属の大きな蒸留装置やボトルをぼんやりと眺めていた。いろいろと思うところがあるんだろう。
だが、俺たちが部屋に入ると、みんな飛んできて、口々に労ってくれる。
俺は長老たちに、さっきの魔法使いの男について、きいてみた ―― しかし、誰も知らないらしい。
〈そもそも、
〈そうです。ォロティア義勇軍や奴隷狩が関係しているとは…… このたびの会議で、初めて知ったことなのですよ〉
〈さよう。言い訳するつもりはないが、
長老たちは押し黙り、また、切なそうに装置を眺める。
いまは学院で
―― さっきの戦闘で、俺は盾の錬成に
こんなセリフが俺の喉もとまで出そうになった。
けれど、言うのはやめておく。
――
ただし…… この世界では、まだ、正しく使うことは難しいだろう。技術も人々の意識も、まったく追いついていないのだから。
ヘタに希望を持たせるのは、優しさじゃなくて安易な自己満足だと、俺は思う。
―― ばっさりとコーヒー事業に替えてしまったほうが、いいはずだ。
「ところで、オースティン先生は?」
〈植物学者の先生は、隣の仮眠室ですな〉 と、長老のひとりが答えた。
〈ほれ、あの、ピカッで…… コーヒー苗の赤ん坊が、目をさましてしまったのでな〉
「コフェドラシルが?」
〈さよう〉
そっか、さっきの戦闘時の光…… ここまでガッツリ、届いてたんだな。
〈植物学者は赤ん坊たちを、もう1度寝かしつけようと、されていてな…… 苦戦して、おられるのだろうか〉
「あれから…… ずっと、出てきてないのですね…… オースティン先生……」
コモレビ姫が仮眠室へと続く扉に、ちらちら目を向けている。心配そうだ。
〈赤ちゃん泣き止まんのと、ちゃうか?〉
ゼファーに言われて耳を澄ましてみれば、たしかに…… 分厚いドアの向こうから、泣き声が漏れている。
「ちょっと行ってみるか」 {はいです!}
俺とイリスは、仮眠室のドアを開けた。