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第二話 霧深き森、目覚め #Ⅱ


「ピコンッ」という音と共に、

 ユウマの目の前のパネルに新たに文字が表示される。



《一日目。初期手札6枚をデッキから手札に加えます》


《明日以降、日付が変わるたびに1枚、自動でデッキからカードを加えます》



 目の前には、6枚のカードが手札として表示された。



 ◇カード名:深淵の司祭。 種類: ユニット(ハイレア) 攻撃力:4 体力:6

 説明: 邪神に仕える司祭。「深淵の従僕」を3体召喚することが可能。



 ◇カード名:邪神のしもべ。 種類:ユニット(レア) 攻撃力:3 体力:2

 説明: 邪神の力で召喚される低級な使い魔。



 ◇カード名:闇の呼び声。 種類:スペル(レア)

 説明: 指定した場所に闇の霧を発生させ、範囲内の敵ユニットの行動を一時的に封じる。



 ◇カード名:深淵からの贈り物。 種類:スペル(ハイレア)

 説明: ユニットの攻撃力+2、防御力+1を短時間強化するが、効果終了後にペナルティが発生する。



 ◇カード名:邪神の封印。 種類:スペル (ノーマル)

 説明: 名に【邪神】と付くユニットカードをデッキから一時的に召喚。その後フィールド上で一定期間封印。対象のカードがない場合、デッキからカードをランダムに一枚手札に加える。



 ◇カード名:滅びの聖域。 種類:スペル(ノーマル)

 説明:特定のエリアを破壊し、その場所に滅びの領域を作り出す。



「これ……間違いない。全部、エデドのカードだ……」



 夢中で遊んだゲームの記憶が、カードの光に呼び起こされる。


 中でも《深淵の司祭》――この中でいちばん強い。しかも召喚と同時に従者を展開できる万能型。


 他にもスペルカードやサポート系があるが、今選ぶなら……


 彼はパネルに浮かぶ選択肢を見つめ、決断する。


 戦う力が必要だ――この先何が待ち受けているのかは分からないが、準備を怠れば命を落とす可能性がある。


 それを避けるために、いま力を手にしなければならない。


 現在の手札が表示されている目の前のパネル――画面から、ユニット「深淵の司祭」のカードを選ぶ。



《深淵の司祭を召喚しますか? はい/いいえ》



「はい」



 ユウマは「はい」を選択し、瞬間的にカードが輝き始める。


 そして、黒い影が目の前に現れ、やがてそれは人型へと形を成し始めた。


 ユウマはその目の前の光景にまさに、ゲームの様だと思った。


 だが、そう。あえてゲームのように言うならば、それは余りにも解像度が高すぎて、恐ろしいと、そう感じた。



 光と影が交錯し、霧の中から現れたその存在は――


「人ではない」――本能がそう叫んだ。



 現れたのは巨大な異形の男――深淵の司祭は、霧の中からゆっくりと姿を現した。


 そして、その堂々たる体躯をユウマに向けて折り、片膝をつく。



「深淵の底から呼び声に応じ、我が王の前に参じました。我が王よ、いかなる命令も承ります……」



 その声は低く、冷たく響き、空気を震わせるように静寂を破る。


 身長はおそらく190センチメートルを超える堂々とした体躯で、その肌は滑らかな深紫ふかむらさきと漆黒が交じり合ったかのような鱗に覆われており、光を受けるとわずかに煌めきを放つ。


 髪は生えておらず、顔は蛇を思わせる異形の面持ちで黄金に輝く獣のような瞳が、まるで底知れぬ闇を映し出しているかのように冷たさを帯びている。


 黒を基調とした祭服さいふくには、深淵のシンボルと古代文字が金色に刺繍され、威圧感を放つ。


 右手には、渦巻く闇の力を秘めたクリスタルが嵌め込まれた黒い杖を握っており、司祭というよりも魔法使いを思わせる。


 その姿からは、カードイラストに描かれている以上の邪神の従者としての威厳と力がにじみ出ていた。



「俺の、配下……?」



 目の前に現れた異形の存在は、画面の中の存在にすぎなかったはずだが、今は目の前で実際に動き、話している。


 ユウマの胸の中に渦巻いたのは、驚きと感動――そして、安心だった。


 怖くないわけじゃなかった。けれど。



“一人じゃない”――

 それだけのことが、こんなにも心強いなんて。


 そう思えたことが、ほんの少しだけ。


 ユウマの胸の重さを、和らげた。


 初めて会う異形の存在に、ユウマは安心を覚えたのだ。

 だからこそ、思った。


 ユウマは自問する。

 ……これは、現実?


 けれど、こんな高精度な夢など、現実以上に現実だった。


 ユウマはその姿を前に、一瞬圧倒されたが、自分の前でいまだに片膝をつき、頭を垂れている深淵の司祭に落ち着かず、ひとまず平静を装い、声をかける。



「えっと……その、深淵の司祭、よろしく……?」



 司祭は冷静にユウマを見つめ、その黄金の瞳にわずかに柔らかさが宿る。


 そして、片膝をついたまま、低く深い声で返答した。



「我が王。貴方は深淵の王にして、邪神の神子。

 この身、この力、すべてを捧げましょう。いかなる命も――御意のままに」



 ユウマはその言葉に一瞬戸惑ったが、その忠誠心を感じ取り、少し安心したように頷いた。



「そ、そっか……頼りにしてるよ、深淵の司祭」



 深淵の司祭は無言で再び立ち上がり、杖を地面につき堂々と構える。


 その姿はまさに、ユウマを守るために生まれて来たかのように――揺るぎない忠誠を持っているのだと感じさせた。




 深淵の司祭を召喚し、ようやく一息ついたユウマ。


 瞬間、目の前にパネルが表示された。


 そこには、先ほどのミッションのクリア通知が光っている。



《ミッション1クリア!》

《クリア報酬:デッキ拡張パック ×1を獲得しました》

《クリア報酬:+500XPを獲得しました》


《実績解除:異界召喚者》


《――世界は、かつての記憶と祈りを辿ります》




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